第11話 五人目の部員
ふふ、すべては俺の計算通り。なんて完璧な計画なんだ。
俺が自分の計算の完璧さに酔いしれていると、どこからか不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ふひ……ふひひひ。萌え~でござる」
げっ、この声は、まさか!
「ちょ、ちょっと俺、トイレ」
慌てて席を立つ。
キョロキョロと辺りを見回す。
いた! キモいストーカーメガネ野郎!
俺は全速力でダッシュすると、校舎の後ろからこちらをのぞき見ていた山田を捕まえた。
「おい山田、どういうつもりだ!」
「どういうとは?」
悪びれる様子もなくニヤニヤする山田。
「これ以上桃園さんに近づいたら、桃園さんにストーカーのことをバラすって言っただろ」
山田はフンと鼻で笑う。
「言いたければ言うでござる。拙者は一向に構わないでござる」
こ、こいつ。開き直りやがって!
「それどころか、困るのはそちらではござらんか?」
「何っ」
「ずばり、武田氏は、拙者が送った桃園さんの画像をスマホに保存しているのではないでござるか?」
「うっ」
確かに、俺は山田から送られてきた桃園さんの画像をたくさん保存している。
もしもそれを桃園さんや、小鳥遊、ミカンに見られたら、俺のほうが変態ストーカー扱いされてもおかしくない。
かといって、せっかくの桃園さんの画像を消すのはもったいないし……!
なんてことだ。知らないうちに、俺は山田の術中にハマっていたらしい。
くそっ、こいつ中々やるな。
「ひ、卑怯だぞ」
クックック、と不気味な笑みを山田は浮かべる。
「何、拙者、武田氏と対立するつもりはござらん。ここは思いきって、二人仲良くするでござる。二人で桃園さんの画像や情報を交換し合えば、よりたくさんの桃園さん画像が集まるでござる」
「は!?」
な、何でこんな変態と仲良くしなきゃいけないんだよ!
「それでなのだが、提案でござる。見たところ、君たちは演劇同好会のメンバーが足りなくて困っている様子。そこで拙者がそこに入ってあげても――」
「断る!」
「な、なんででござるか!」
なんでも何も、なんで好き好んでこんなやつを演劇同好会に入れなきゃいけないんだよ。
「拙者、桃園さんを見ているだけで幸せでござる。それ以上は何も危害を加えるつもりはないでござるよ。ただ、桃園さんの演技を間近で見たいだけで――」
どうだか。こいつは小鳥遊にフられて落ちこんでいる桃園さんに、相談に乗るふりをして近づき、ちゃっかり彼氏になってしまうような奴だぞ。信用できない。
それどころか、絶対に桃園さんには近づけられない!
「そんなの絶対――」
俺が言いかけたその時、後ろから声がした。
「あれ? 遅いと思ったら、山田くんと話してたんだ。こんな所で何をしてるの?」
げっ、小鳥遊!
俺は山田の胸ぐらを掴んでいた手をパッと離した。
よりにもよって、こちらに歩いてきたのは小鳥遊だった。ちっ、見つかったか。
「あ、いや、ちょっと山田と話してて」
俺が何とかして誤魔化そうとしどろもどろになっていると、山田がすかさず、ずいと前に出た。
「小鳥遊どの、実は拙者、演劇同好会に入りたいでござる!」
こ、こいつ。小鳥遊に頼むなんて卑怯だぞ!
「そうなの? わあ、ちょうど人数が足りなくて困ってたんだ。嬉しいよ!」
キラキラと目を輝かせて喜ぶ小鳥遊。
え、いいの? こんな『ごさる』とか語尾につけちゃうような奴だぞ!? 考え直した方がいいんじゃないか?
俺はなんとか山田の演劇同好会入りに反対しようとしたが、うまい反対の理由が思いつかない。
まさか「将来桃園さんとくっつくかもしれないから」だなんて言えないし……。
小鳥遊は子供のように純粋な瞳で俺を見つめた。
「ねっ、武田くん。いいよね?」
「う、うん、まぁ……」
結局、山田の巧妙な作戦に屈した俺は、しぶしぶ山田の同好会入りを認めた。
まぁ、山田は小鳥遊にフラれた桃園さんに近づいて彼氏の座をゲットするハイエナみたいなやつだ。
けど、逆に言えば、桃園さんがフラれないか限りは告白なんてしてこないだろう。そんな勇気は無いはずだ。
ようは小鳥遊と桃園さんがくっつけばいいんだ! うん!
それに、これでメンバーが五人そろうし、これなら凛子先輩を誘う必要も無くなるわけだ。
凛子先輩は途中で卒業して戦線離脱する、比較的危険度の低いヒロインだけど、わりと人気キャラだし、小鳥遊とも何度か良い雰囲気になったりもするから排除しておいて損は無い。
そんなふうに自分で自分を納得させる。
「よし、これで五人部員は確保できたね」
さっそく、桃園さんとミカンに山田を紹介する小鳥遊。
「――と、いうわけで、山田くんが演劇同好会に入ってくれることになったよ」
「わあ、ありがとう、山田くん!」
「一緒にがんばりましょうね!」
「よ、よろしくでゴザル。ぐへへへへ」
くそっ、山田のやつ、鼻の下を伸ばしやがって。
「ねえ、あんなやつ入れて大丈夫なの?」
ミカンがこっそりと俺の耳元で囁く。
「俺は反対したんだけど、小鳥遊が入れちゃったんだからしょうがないだろ」
俺がため息混じりに言うと、ミカンはぷぅと頬を膨らませた。
「もう、いっくんってばお人好しなんだから」
本当だよ!
いつか騙されて怪しいツボとか買っても知らないからな?
――てなわけで、原作ではここから部員集めに奔走するストーリーだったはずが、すんなりと部員が集まってしまった。
しかも原作では男子一人に女子が四人のハーレムだったのに、山田のせいで男子三人に女子が二人のごくごく普通の健全な同好会になってしまったのであった。
これから一体、どうなるんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます