4.無口系美少女のユウちゃん
第12話 無口系美少女ユウちゃん
さて、そんなわけで無事に同好会発足に必要なメンバー五人が揃ったわけだが、俺にはある懸念があった。
それは、本家桃学で見事小鳥遊のハートを射止めた青梅ユウちゃんの事だ。
ユウちゃんの同好会入りはこれで回避したかもしれないが、相手はなんと言っても他の人気ヒロインたちを押しのけて小鳥遊の彼女の座を勝ち取るユウちゃんだ。
同じ学年でクラスも隣どうしだし、いずれ別のタイミングで小鳥遊と出会ってしまうかもしれない。
少しでもユウちゃんが小鳥遊と出会い、好意を抱く可能性を減らしておくにはどうしたらいいんだ?
そこで俺は、とある作戦を決行することにした。
「いたぞ、あそこだ」
昼休み。渡り廊下を渡るユウちゃんを見つけた俺は、購買に行くふりをしてその後をこっそりとつけた。
小柄で細身の体。前髪で顔を半分隠したショートカットに、細い黒縁のメガネ。
さすが桃園さんを差し置いて小鳥遊と結ばれるヒロイン、決して派手ではないのに、遠くからでも美少女だということが分かる。
俺はユウちゃんの後ろ姿を追って渡り廊下を走った。
ユウちゃんは角を曲がり、生物室へと入っていく。
そういえば、ユウちゃんと小鳥遊が出会うのもこの生物室だったっけ。
俺は小鳥遊とユウちゃんの出会いのシーンを思い出した。
確か、演劇同好会の部室を探して放課後の教室を小鳥遊が見て回っている時に、偶然にも生物室で本を読んでいるユウちゃんに出会う、という展開だったはずだ。
そうだ、思い出した。そこで小鳥遊が「どうして君は自分の顔を隠しているの。うつむかないで。前髪を切って、眼鏡を外したらきっと可愛くなるよ」みたいなことを言って、ユウちゃんは小鳥遊に惚れちゃうんだよな。
何でそんなことぐらいで惚れちゃうかな。チョロすぎないか?
それに、俺としては貴重な目隠れキャラやメガネっ娘属性を捨てて、ただのショートカットの女の子になっちゃうのが納得いかないんだよな。
メガネっ娘はメガネっ娘ってだけで最高なのにさ。
余談だが、俺は巨乳好きだけど、メガネっ娘フェチでもある。
――とまあ、それは良いとして、ともかく俺は、ユウちゃんの後を追って生物室に入った。
「――失礼しまーす」
声をかけ教室のドアを開けると、ユウちゃんがビクリと身体を震わせた。
「あっ、ごめん、驚かせちゃった?」
ユウちゃんは警戒したような表情で俺を見つめる。
「実はこの部屋に忘れ物しちゃったみたいで。取ったらすぐ帰るから」
「……そう」
俺が忘れ物を探すふりをしていると、ユウちゃんはカバンから弁当箱と単行本を取り出し弁当を食べ始めた。
変だな。何でこんな所で弁当なんか食べてるんだろう。クラスに友達とかいないのかな。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題は、ここからユウちゃんが小鳥遊に出会わない、あるいは出会ったとしても好きにならないようにするにはどうしたらいいかということだ。
俺は弁当を食べながら本を読んでいるユウちゃんに目をやった。
「あ」
思わず声を上げる。
「……なに」
怪訝そうな顔をするユウちゃん。
「あ、いや、その本、俺も持ってる」
俺がユウちゃんの持っている『中世残酷拷問事典』という本を指さすと、ユウちゃんは驚いたように目を見開いた。
「この本を……あなたも?」
「ああ」
実は俺は中学生の頃、小説家を目指していた時期がある。
そしてその時に、拷問器具にちなんだ必殺技を使う敵キャラのアイディアを練るのにこの本を買ったのだ。
ちなみに桃学に出会ってしまったせいで、オリジナルよりも桃学の二次創作に夢中になってしまい、結局その本は結局役に立たずじまいだったけどな。
「割と面白いよな。イラストも綺麗だし」
「そう……面白い、と思う」
ユウちゃんが遠慮がちにうなずく。
よし、どうやってユウちゃんに話しかけるか悩んでいたが、とりあえず掴みはオーケーだな。
「あれ」
俺がわざとらしく声を上げると、ユウちゃんはは小動物みたいにビクリと身体を震わせた。
「あれあれあれ! 君、よく見ると可愛いね。その髪型も個性的だし、メガネも凄く似合ってる」
「そ、そう……かな」
ユウちゃんが恥ずかしそうに俺から視線をそらす。
「私、自分のメガネがあんまり好きじゃない。でもコンタクトを入れる勇気もない……だから前髪を伸ばして隠してる……」
そうだったのか。そんなキャラ設定があったとは。
「そんなことないよ! こんなにメガネが似合う子、俺は初めて見たよ。すごく可愛い」
俺は声を張り上げた。
「だから、もしこの先誰かが『メガネを外した方が可愛い』だとか『前髪を切って顔を見せた方が可愛い』なんて言ってもそれは無視してもいいぞ。だって君は、メガネがすごく似合うし、その髪型も最高なんだから!」
ぜーはー、ぜーはー。
しまった。初対面の相手なのに、少し熱弁しすぎたか。ユウちゃん、引いてないかな?
だが俺の不安とは裏腹に、ユウちゃんは素直にコクリとうなずいた。
「分かった。この髪型でいる。メガネも外さない」
よっしゃ!
「――っと、あれれ、忘れ物したと思ってたんだけど、無いな。ひょつとしたら他の教室かもしれないな。それじゃまた」
さて、目標は達成したし、退散するか。
「――待って」
わざとらしく教室から出ようとする俺に、ユウちゃんが声をかけてきた。
「え、何?」
「あなたの名前、何」
名前? 名前なんて聞いてどうするんだろう。
「俺? 俺は武田タツヤ」
「そう。覚えた」
ユウちゃんがコクリとうなずく。
別に俺の名前なんか覚えなくてもいいんだけどなー。
「ありがとう、じゃあな」
俺は手を振って生物室を出た。
ふふ……ふふふ。パーフェクトだ。
これでユウちゃんと小鳥遊のフラグはへし折れたはず!
ああ、自分の計画の完璧さに、ほれぼれしてしまうなあ!!
それにしてもユウちゃん、原作ではおしゃれな日常ミステリーとか女性向けの恋愛小説をよく読んでるイメージだったんだけど、意外とああいうグロいのも好きだったのかな。
それとも、本当に好きなのはああいう本で、小鳥遊の前だから無理しておしゃれな本を読んでたのかな。
ありえる。俺もクラスメイトにラノベを読んでるのをバレたくなくて、村上春樹の本のカバーをかけて誤魔化したりしてたもんな。うん、分かる、分かる。
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