第10話 同好会を立ち上げよう!

「さて、皆さんもう学校には慣れましたか? この学校では、生徒の皆さんは何か特別な事情がない限りは部活動に所属してもらうことになっています」


 白いブラウスの胸元を大胆に開け、ピチピチのタイトスカートをはいた女教師が、黒板に「部活動」と書いた。


 我がクラスの担任、藤沢紫乃ふじさわしの先生は、その大人の魅力たっぷりの容姿から、ちょいキャラにも関わらず根強い人気があるエロ女教師である。


 紫乃先生は、たわわなGカップバストの谷間と黒いガーターベルトを男子生徒に見せつけながら、しゃなりしゃなりと入部届けを配った。


 俺は配られた入部届そっちのけでその胸元に見入る。


 いやしかし――マンガだと全然気にならなかったけど、実際にこうして紫乃先生を見ると違和感ハンパないな。


 学校の中だというのに、なんつーハレンチな格好してるんだこの女教師は!


 まったく、PTAとか職員室の他の先生からクレームが来たりしないのかね。


 やっぱりアレか? 校長の愛人だったりするから誰も文句が言えないのだろうか。それとも理事長の娘だったりするのか。


「武田くん」


「ん!? ああ、何だ小鳥遊」


 急に小鳥遊に声をかけられてビクリとする。


 小鳥遊は爽やかな笑顔を浮かべ、入部届を見せてきた。


「武田くんはどこの部活に入るの?」


「ああ、部活。部活かあ」


 原作の桃学では、ここで小鳥遊が新しく演劇同好会を作るという展開になっている。


 小鳥遊、桃園さん、ミカン、ユウちゃん、それから凛子先輩という先輩の五人が同好会の立ち上げメンバーなのだが……。


 俺は少しの間考えた。


 演劇同好会のメンバーの中で最も危険なのは、本家桃学のラストで小鳥遊とくっつき、正ヒロインの座を射止める青梅あおうめユウちゃんだ。


 なので、桃園さんと小鳥遊をくっつけるには、ユウちゃんを演劇同好会に誘わないのが一番だ。そうすれば小鳥遊とユウちゃんの接点は無くなる。


 でもそうすると、演劇同好会の部員が足りなくなってしまうが――。


 俺は必死で考えをめぐらせた。


 そうだ。確かユウちゃんは、どうしても同好会立ち上げに必要な五人にメンバーが足りなくて、演劇同好会に数合わせで入れられるという展開だったはずだ。


 なら、演劇同好会に俺が入ってしまえば、同好会立ち上げのメンバーは足りることになり、ユウちゃんは誘われないのでは?


 おお、これはナイスアイディアだ!


 俺は口からでまかせを言うことにした。


「俺、実は演劇部に入ろうと思ってたんだけど、この表を見るに演劇部は無いみたいだな。それで演劇同好会を立ち上げようと思っててさ」


「そうなんだ!」


 小鳥遊が驚きの表情を浮かべる。


「実は僕も演劇部に入ろうと思ってたんだ。僕たち気が合うね」


 キラキラとした瞳で俺を見つめる小鳥遊。


「そ、そうだな。ハハハ……」


 そりゃそうだ。小鳥遊の行動は全てお見通しだからな!


「でも同好会ってどうやって作ればいいんだろう」


 小鳥遊が不安そうな顔をする。俺は胸を張って答えた。


「何でも部員を五人集めて生徒会に申請すればいいらしいぜ」


「そうなんだ、詳しいね」


「それは、あの、えっと、仲の良い先輩から聞いて」


 脂汗を浮かべながら答える。

 小鳥遊はうんうんとうなずいた。


「そっかぁ。部員を五人集めればいいのか。それならやってみようかな」


「よし、そうと決まったなら、ミカンや桃園さんに相談してみようぜ」


 俺が言うと、小鳥遊は目をパチクリさせる。


「えっ。でもミカンは運動神経抜群だし、色んな運動部から誘われてるだろうから入ってくれないと思うよ」


 バカだなぁ。ミカンはお前のためなら何でもする女だぞ。お前のためならパンツだって見せてくれるし、演劇同好会だって喜んで入ってくれるさ。


「まあ、そうかもしれないけどさ、一応声だけでもかけてみろよ」


「うん、分かった。じゃあミカンには僕から伝えておくから、武田くんは桃園さんの方お願いできるかな」


 いやいや、桃園さんに関しては小鳥遊から声をかけてもらわないと困るんだけど。


 でないと、二人が実は演劇好きで、将来は女優と脚本家を目指していることが分かるという重要シーンが無くなってしまう!


 俺は少し考えた。このあと、二人が将来を語る自然な流れにするには、どういう展開に持っていけばいいんだ?


「じゃあ、昼休みにまた皆で昼飯を食べながら話そうぜ」


「そうだね、その方が話も早いかも」


 そんなわけで、俺たちはまた裏庭の木の下に昼食を持って集まることになった。


 ***


演劇同好会ふぇんふぇひほぅうほぅふぁい?」


 ミカンが唐揚げをリスみたいに頬張りながら首をかしげる。


 全く、食事マナーのなってない女だぜ。


「何それ。いっくん演劇なんかに興味があったの?」


「えっと、うん。実は昔、とある舞台を見て演劇に興味を持ってさ」


 照れ笑いを浮かべる小鳥遊。その表情を、桃園さんは興味深そうに見つめた。


「舞台ですか」


 実はその舞台、桃園さんが昔、子役として出演していた舞台だったんだな。ま、その事を知ってるのは俺だけだけど。


「でさ、演劇同好会を作るには部員が五人必要なんだ」


「そうなの? じゃあ、ここにいる四人が入れば、後は一人メンバーを集めるだけでいいじゃん」


 ミカンが元気よく叫ぶ。


「え、でもミカンは運動部に誘われてたんじゃ」


「誘われてるだけで別に入ったわけじゃないし。それに私、いっくんのためなら何でもしたいの」


 ミカンがどさくさに紛れて小鳥遊の腕に抱きつき胸を押し付ける。


「ちょ、ちょっと待ってよミカン、ミカンがそれで良くても、桃園さんが――」


「私も大丈夫です。他に特に入りたい部活もないですし」


 桃園さんが桃色のハンカチで口をぬぐう。


「本当? ありがとう、桃園さん」


 ミカンが桃園さんに抱きつく。


「ひゃ、ひゃあ。ミカンさん!?」


 じゃれつく二人を前に、俺は黒い笑みを浮かべた。


 ふふ……計画通り。


 後は演劇同好会最後の一人、凛子先輩を同好会に引き入れればいいだけだな。

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