第9話 スカートの中の事情

「なるほど、それで桃園さんをストーカーしてたというわけか」


 俺が山田を睨みつけると、山田はビクリと体を震わせた。


「ストーカーじゃないでござる!」


 いやいや、隠し撮りなんかして、立派なストーカーだろ。さっき自分でも言ってたし!


 まあでも、これで山田が桃園さんのことをチラチラ見ていた理由は分かった。あとは――。


「じゃあ、小鳥遊に近づこうとしてたのはなぜだ?」


「それは――」


「それは?」


 神妙な表情をする山田の顔を、ゴクリとツバを飲み見つめる。


「パンツでござる」


 は?


「小鳥遊は、貴重な桃園さんのパンツを見たでござる。それで、桃園さんが一体どんなパンツを履いているのか聞きたくて、小鳥遊のことを追いかけていたでござる!」


「……あ、そう」


 俺はガックリと肩を落とした。ま、まさかパンツ目的だったとは。


「そ、そんなに呆れた顔をするなでござる!」


「いや、呆れるだろ」


「だって、パンツでござるよ!? 桃園さんのビッグピーチを包む神秘の薄布に、興味が無いとは言わせないでござるよ!」


 ツバを飛ばしながらまくし立てる山田。

 俺はポリポリと頭をかいた。


「いや、俺はパンツよりおっぱい派だし……」


「それに!」


 山田がビシッと俺を指さす。


「小鳥遊みたいなイケメンの側に入れば、黙っていても美少女が寄ってくるでござる! お主もそのつもりで小鳥遊に近づいたのでござろう!?」


「ち、違う!」


 俺は桃園さんと小鳥遊をくっつけるという崇高な目標があるんだ。


 イケメンの親友になって、イケメン目当てで近づいてくる女の子を狙おうとするお前なんかと一緒にするな!


 俺はゴホンと咳払いをすると、精一杯怖い顔を作って山田を睨みつけた。


「とりあえず事情は分かった。だがこれ以上、桃園さんや小鳥遊に近づいたら、桃園さんに、お前は隠し撮りをする変態ストーカーだと告げ口するからな」


「ひ、ひいぃ……分かりました」


 涙目になってヘナヘナと崩れ落ちる山田。本当だろうな。


 あ、そうだ。小鳥遊につきまとってたのがパンツのためだとするなら――。


「ピンクだよ」


「へ?」


 俺の言葉に、山田はわけが分からない、という風に目を見開く。


「ピンクだよ、桃園さんのパンツの色。俺もあの時、実は見てたんだ」


 そう、山田が桃園さんのパンツのことで小鳥遊につきまとっていたのだとしたら、俺から桃園さんのパンツがどんなだったか教えてやれば満足するはずだ。そう思っていたのだが――。


「ぶっほう!!」


 飛び散る血。


 真っ赤な鮮血が山田の鼻から飛び出し、俺のシャツを汚した。


「は!???」


「ピ、ピンク……桃園さんのパンツの色はピンク!!」


 ビクビクと痙攣しながら恍惚とした表情で繰り返す山田。


 一瞬、訳が分からなかったが、どうやら桃園さんのパンツ情報に興奮して鼻血を吹き出したらしい。


 全く、パンツに興奮して鼻血出すとか、マンガかよ!?


 ……そういえばこいつ、マンガのキャラだっけ。


「あー、いたいた武田、遅いから見に来ちゃった。こんなところで何やって――」


 タイミングよくやって来たミカンが、鼻から大量に出血している山田を見て固まる。


「げつ、ミカン!」


「ちょ、あんたこれ――」


 ミカンの顔色が変わる。


「ち、違う! 俺じゃない!」


 まずいぞ、これ。はたから見たら俺が山田を殴ったみたいじゃないか!


 俺は慌てて山田の肩を組んだ。


「いやー、山田くんがたまたま鼻血出しちゃってさー。とりあえず俺は山田くんを保健室に連れていくから、みんなにもそう伝えておいてね。さ、山田くん、僕と一緒に保健室に行こうね~!」


「う……うん」


 ミカンが困惑した表情で裏庭へと戻っていく。あれ、絶対に勘違いしてるよな、どうしよう。


 俺は大きくため息をついた。


「とりあえず、一緒に保健室に行こうか」


「そうでござるな」


 結局、俺は山田が保健室に行くのに付き合い、貴重な昼休みが潰れることとなった。


 はあ……せっかくの桃園さんとの昼休みが。


 でもまあ、山田にはきっちりとクギを刺しておいたし、これからは山田が桃園さんや小鳥遊につきまとうことは無くなるだろうな。


 ***


「さ、今日のお弁当は何かなー」


 翌日。俺たちは再び四人で裏庭の木の下に集まり、昼食を食べようとしていた。


「おおっ、今日は唐揚げだ」


「すごーい、美味しそう!」


 俺たちが互いの昼食について話していると、再びどこからか視線を感じた。


「……あれ?」


 まさかまた山田? でも昨日、あれだけ釘を刺しておいたのに、まさかな。


 俺がキョロキョロしていると、小鳥遊が不思議そうな顔をして見てくる。


「どうしたの、武田くん」


「いや、何でもない。気のせいかな」


 おかしいな、確かに山田の気配がしたんだが。


 そう思っていると、ミカンが俺のスマホを指さす。


「武田、あんたのスマホ光ってるわよ」


「ああ」


 ミカンに言われ、何の気なしにスマホを手に取る。


 すると誰かから画像が送られてきた所だった。


「送り主は――山田!?」


 どういうことだ? あいつ、どうやって俺の連絡先を知った?


「……げ」


 開いてみると、前かがみになって胸の谷間が見える桃園さんや、斜めにバッグをかけて胸の形があらわになった桃園さん、他にも桃園さんの胸の形が強調されたショットがたくさん送られてきた。


「……あいつ!」


 辺りを見回すと、校舎に向かって走っていく山田の後ろ姿が見えた。


「ごめん、ちょっと忘れ物!」


 俺は慌てて山田の後を追いかけようとしたが、一足遅かったようで、いつの間にか山田の姿を見失ってしまった。


「くそ……逃げられたか」


 するとスマホにこんなメッセージが届いた。


『おっぱい派の武田氏には、桃園さんのおっぱいの画像を送るでござる! だからこの件は見逃してほしいでござる~! あなたの心の親友YAMADA☆』


 見逃すわけ無いだろうが!


 全く、あいつ、今度見つけたらただじゃすまないからな。


 俺はスマホをチラリと見た。


 だが、それはそれとして桃園さんのおっぱい画像はしっかりと保存しておいた。

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