3.演劇同好会を立ち上げよう!

第8話 親友ポジの山田くん

「そういえばさー」


 お昼を食べに行く道すがら、ミカンが渋い顔をする。


「同じクラスの山田とかいう奴いるじゃん?」


「ああ、あいつね」


 俺は思わず眉をひそめた。


 山田といえば、桃学の原作で小鳥遊の親友ポジだった男――そして、ラストでなぜか桃園さんとくっついた憎き男だ。


「私が桃園さんと話してたらこっちをじっと見てきたんだけど。なんかキモイ」


 ミカンが身を震わせると、小鳥遊は眉をひそめた。


「ミカン、人のことをそんな風に言うんじゃないよ」


「はーい」


 ミカンが肩をすくめる。

 ああ、小鳥遊相変わらず良い奴だなあ。


 それにしても――山田か。


 山田は、本来ならば小鳥遊と親友になる予定だった男。そのポジションを俺は奪った形になるのだが――。

 

 確かに俺も、気がつくと山田が桃園さんの方を見ているような気がしていたんだよな。


「でも……そういえば、僕もたまに山田くんに見られているような気がするんだけど、何でだろう」


 小鳥遊が不思議そうな顔をする。


 桃園さんだけじゃなく、小鳥遊のほうも見ていた?


 そういえば山田のやつ、始業式の時も、出席番号順で席が離れているにも関わらず小鳥遊に話しかけようとしていたな。一体なぜだ?


「なあ、小鳥遊」


「ん、何?」


「山田ってさ、前から小鳥遊と友達だったりする?」


「いや、中二の時は同じクラスだったけど、そんなに話したことは無かったかな」


 ふむ、一応同じ中学ではあったわけだ。

 でとそこまで仲が良かったわけじゃないと。


 でも原作では、入学式の日にいきなり小鳥遊の親友になるキャラクターとして山田は登場したよな。一体どうして山田は小鳥遊と親友になろうと思ったんだろう。


「あ、もしかして」


 ひらめいた、という顔をする小鳥遊。


「山田くん、僕たちと友達になりたいんじゃないかな?」


「えー、やだ」


 ミカンが顔をしかめる。

 うん、それについては俺も同意だ。


「何でだよ」


「私にはいっくんがいればいいの。それに、可愛い可愛い桃園さんもいるし!」


 ミカンが桃園さんに抱きつく。


「ひゃあっ!?」


「んー、柔らかくて可愛くていい匂い! 女の子の友達ってのも良いかも」


 桃園さんの胸にスリスリするミカン。なんと羨ましい!


「ご、ごめんね桃園さん」


 小鳥遊が慌てる。


「ミカンってば、ずっと僕にベッタリだったから、親しい女の子の友達って今までそんなにいなかったみたいで、距離感がちよっとおかしいんだ」


 あ、そうだったんだ?


 そういえばミカンがクラスで特定の女子と一緒にいるシーンってあんまり見たこと無かったかも。


「いえ、構いません。ミカンちゃん、とっても可愛いですし」


 桃園さんが微笑みながらミカンの頭を撫でる。


 天使か? それとも聖母なのか、桃園さんは。


 俺がミカンと桃園さんのイチャイチャを見ながらニヤニヤしていると、急にどこからか

気味の悪い声が聞こえてきた。


「デュフ……デュフフフフ。これはこれでいいでござるなぁ」


 ん? この声、もしかして。


 俺はキョロキョロと辺りを見回した。すると、校舎の影に見覚えのあるメガネの男を見つけた。


 あいつ!


 山田は俺と目が合うと、サッと顔色を変えて逃げていった。


 間違いない。あいつ、俺たちの事をずっと見張ってたな!?


 反射的に立ち上がる。


「武田くん?」


「ごめん、ちょっと忘れ物!」


 俺はとっさにでまかせを言うと、山田を追いかけて校舎のほうへと向かった。


「待てこらっ!」


「ひいいいい! な、何でござるか!」


 どうやら山田はあまり運動神経が良い方では無いらしい。

 俺もあまり足が早い方では無いが、生徒玄関口で山田に追いつくと、楽々と捕まえることができた。


「おい、お前、何で俺たちをのぞき見してた!?」


 山田の腕をつかんでねじり上げる。山田はヒョロヒョロなので、体力で圧倒するのは簡単だ。


「なっ……やめるでござる! やめるでござる! 暴力反対!」


 山田はジタバタとしながら、か細い声でさけんだ。


「何をしてたんだと言ってるんだけど?」


「う、うるさい! 拙者は桃園さんのストーカーなんてしてないし、隠し撮りもしてないでござる! 拙者はただ、桃園さんと橙野さんの百合の間に挟まりたいだけでござる!」


 百合の間に挟まりたいだと? 百合は背後の壁か植木になって鑑賞するのがセオリーだろ。それを百合の間に男を挟めるだなんて、なんて邪悪な奴なんだ! 戦争しかない!!


 ……じゃなくて!!


 俺は山田の胸元をぐいとつかんだ。


「やっぱりお前、桃園さんのストーカーだったんだな」


「違うでござる! 誤解でござる!」


 必死で俺の手を振り払う山田。


「ほう?」


 俺はバッと山田の手からスマホを奪い取った。


「何をするでござるか!」


 画面には、案の定ミカンが桃園さんのおっぱいを揉みしだいているハレンチな写真が何枚もうつっていた。


 何だこれ。俺にも転送してくれないかな……じゃなくて!!


「じゃあ、これは何だ?」


「こ、これは拙者が学校の風景の写真を取ろうとしていたら偶然写りこんで」


 いや、偶然じゃないだろ。思い切り桃園さんにピントが合ってるし。


「いや、嘘だろ。お前、なんで桃園さんの写真なんか撮ってたんだ」


「それは――」


「本当のことを言えばスマホは返してやる」


「ぐぬぬぬぬ」


 俺がじっと山田を見つめると、山田は観念したようにうなだれ、遠い目をして語りだした。


「そう、あれは二年前の夏のことでござった――」


「いやまて、お前の過去なんて誰も聞きたくない」


「自分から聞いておいてなんででござるか!」


 本当は山田の話なんて聞きたくなかったが、ムリヤリ聞かされたところによると、どうやら山田は中二の時に桃園さんの舞台を見て、それからというもの桃園さんのことが好きらしい。


 それで桃園さんのことを追ってこの学園に入学してきたというのだ。


 なるほど、ただのモブだと思っていた山田にそんなキャラ設定があったとは、桃学ファンの俺でも知らなかったぜ。深いなあ、桃学の世界!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る