14.お正月はロリとともに
第50話 嫌な夢
その夜、俺は夢を見た。
中学生の頃に起きた――忘れたい出来事、黒歴史の夢だ。
当時、俺には好きな人がいた。
それは、席替えで偶然、隣の席になった
色白で長い髪で、笑顔が可愛いクラスのマドンナ。
和泉さんは、オタクで陰キャの俺にも優しく話しかけてくれた。
まあ、和泉さんは俺にだけ優しいんじゃなく、クラスみんなに優しかったんだけど、それでも愚かな俺は勘違いしてしまったんだ。
俺でもいけるんじゃないかと。
そして中三のある日、俺は和泉さんに告白した。
「好きです。俺と付き合ってください!」
ありったけの勇気を振り絞って告白した俺。だけど和泉さんは、気持ち悪い虫でも無るような目でこう言ったのだ。
「――キモい。私の事、そんな目で観てたんだ?」
そして次の日の朝登校すると、俺が和泉さんに告ったという噂はクラス中に広がっていた。
「マジキモい」
「あいつ、和泉さんと釣り合うとでも思ってんの?」
「あんな陰キャと付き合ったら、和泉さんの格が下がるっつーの」
クスクスと女子たちの笑い声が聞こえてくる。
すると和泉さんが登校してきた。
「お、おはよう」
俺は平静を装って挨拶したのだが――振り返った和泉さんの顔は青ざめていた。
「キモい。話しかけないで」
心底嫌そうな顔をして言い放った和泉さんの顔は、いつの間にか桃園さんの顔に変わっていた。
「気持ち悪いです、武田くん。私の事、そういう目で見てたんですか?」
桃園さん……ごめん! ごめんよ。俺は、そんなつもりじゃ……。
そんなつもりじゃ……!!
***
チュンチュンチュン……。
朝日が眩しい。
「――あれ?」
俺はベッドから飛び起きた。
窓の外には眩しい朝日――というか、完全に日が登ってやがる。
のびをし、ソロソロと起き上がる。
「ふあ~あ……なんか新年早々、嫌な夢見たなあ」
俺はカレンダーを見た。今日は一月四日。初夢じゃなかったのがせめてもの救いだが、嫌な夢には違いない。
――分かってる。
桃園さんを好きになった所で、俺なんかと付き合っても桃園さんは幸せになれない。
そんなこと、十分に分かっているさ。
だって俺は、主人公じゃないんだから。
俺は部屋から出て居間に向かった。
テレビでは、面白くもないお笑い番組が延々と流れている。
俺は朝ごはんを食べ終わると、こたつの中に入りダラダラとスマホをいじり始めた。
「こら、タツヤ、ゴロゴロしてないで、たまには外に出たらどうなの」
母親が腰に手を当て呆れた顔をする。
「えー、めんどくさい」
「とりあえず、掃除機かけるからコタツの中からだけでも出なさい」
母親に言われ渋々コタツから出る。くそっ、俺の癒しのコタツちゃんが!
仕方ない。気は進まないが、どこか外へでも行くか。
初売り、福袋、初詣……。
ダメだ。どこに行っても混んでそうで気が進まない。
あ、そういえば原作では、一年目の正月って何かイベントあったっけ?
俺が原作の展開を思い出していると、小鳥遊からスマホにメッセージが入った。
『これからうちに来て遊ばない? 一緒に初詣しようよ』
俺が、小鳥遊の家に!!
ガバリと飛び起きる。
沈んでいた心が沸き立ち踊る。
マンガの中でしか見た事がなかった小鳥遊の家を生で見れるなんて、夢みたいだ!
それに……小鳥遊の家といえば、あの人気キャラがいるんだよな。あいつにも一度会っておかないと。
ピンポーン。
ソワソワしながら小鳥遊の家のインターホンを押すと、ものの数秒でガチャリとドアが開いた。
「いらっしゃーい」
「わっ」
俺がドアの開く勢いにたじろいでいると、小鳥遊はえへへと笑った。
「ごめんごめん、待ちきれなくて、玄関先で待ちぶせしてたんだ。いやあ、親友である武田くんと二人っきりの初詣、楽しみだよ!」
目をキラキラと輝かせる小鳥遊。
「そ、そうか……」
小鳥遊のやつ、いつから待ってたんだ?
「ところで
俺はキョロキョロと家の中を見回す。
あんずちゃん――
小鳥遊の恋愛にあれこれアドバイスをしたりする重要キャラだが、『桃学』の世界に来たにも関わらず、俺は今まで杏ちゃんに会ったことがなかった。
だから今日こそは会えると楽しみにしてきたのだ。
ロリははっきり言って趣味じゃないけど、せっかくこの世界に来たんだから、全部のキャラに会っておかないとな!
「ああ、杏は今年から神社の巫女さんのお手伝いをすることになったんだ。高校生のバイトを募集したんだけど、今年は中々人が集まらなかったらしくて」
「そうだったんだ」
小鳥遊の家の隣には古い神社がある。実は小鳥遊はそこの神主の息子で跡取りなのだ。
「小鳥遊は神社を手伝わなくてもいいのか?」
「僕も手伝いたかったけど、巫女さんの手伝いを出来るのは女だけだからって」
「ふうん」
女じゃなきゃ駄目なら女装すれば……と密かに思ったけど、口に出して言うのはやめておいた。男の娘の巫女さんというのも見てみたい気はするが。
「それでも昨日までは忙しかったからお客さんにお茶を出したりだとか、掃除だとか、そういう雑用はやってたけどね」
と、小鳥遊が不思議そうな顔をして首をかしげる。
「そういえば、武田くん、何で杏のこと知ってたの? 妹がいるって話したっけ?」
「え!? あ、いや、ミカンに聞いたんだよ……あはははは……」
適当に誤魔化すと、小鳥遊は急に暗い顔をして下を向いた。
「そっかあ、ミカンがかあ……僕の知らないところで色々と仲良くしてるんだね」
およ?
「親友の僕を差し置いて、そんな話までするなんて、やっぱりミカンのやつ、武田くんのことが好きなんじゃ……」
「いや、それはない」
だから、ミカンが好きなのはお前だっつーの。
全く、正月だというのに、相変わらず小鳥遊ときたら鈍感なのな。やれやれ。
「それより、早く初詣行こうぜ」
「うん、ちょっと待って。外は冷えるからマフラー用意するね」
ジャンパーを着込み、マフラーを巻く小鳥遊。
色白の肌に、彫りは深くないけど整った顔立ち。涼し気な目元に、サラサラの髪。
マフラーを巻く、ちょっとした動作ひとつを取っても小鳥遊はイケメンだ。男の俺でも見とれてしまうんだから。
俺がぼうっとしていると、小鳥遊はクスリと笑った。
「さ、行こうか」
「うん」
こうして、俺と小鳥遊は二人で初詣へと出かけたのだった。
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