第51話 ロリと巫女と初詣

 二人で神社の石段を登る。石段そのものには雪は積もっていないが、石段の脇の地面にはかすかに白く積もった雪があった。


 昨日の夜は冷え込んだから、この辺りでも少し雪が降ったらしい。


 二人で『小鳥遊神社』と書かれた大きな石造りの鳥居をくぐる。


「今日はすいてるね。昨日までは結構混んでたんだけど」


 神社の境内には十人ほどの人が並んでいたが、確かに正月にしてはすいているほうかもしれない。すぐに順番が回ってきた。


「そうだ、賽銭」


 俺は財布を開いた。

 が、小銭入れにはなぜか五百円玉が一枚しか入っていなかった。


「げ……」


 これ、毎週買ってる少年漫画誌のために取っておいてるお金なんだよな。


 これをお賽銭に入れてしまうと、俺の楽しみにしてるラブコメ漫画『並木色ラブストーリー』が読めなくなってしまう。


 『並木色ラブストーリー』は、この世界で『桃学』の代わりに連載されてるハーレムラブコメなんだけど、ヒロインが巨乳で可愛いし、結構面白いんだよな。


 それに主人公が向こうの世界での親友の鈴木にそっくりで、読んでると何だか懐かしくなるし。


 どうしよう。小鳥遊に小銭を借りるか?


 ――いや、仕方ない。ここは奮発しよう。何せ、俺には叶えなくちゃいけない願いがあるのだ。


 俺は桃園さんを勝ちヒロインにするためにここに来たんだ。五百円ぽっちを惜しんでどうする!


「武田くん?」


「いや、何でもない」


 俺は賽銭箱に五百円玉を投げ入れた。

 二礼二拍手一礼。


 頭の中に桃園さんの笑顔が浮かぶ。



 桃園さんが、幸せになりますように!



 ***

 


「随分長かったね。何を願ったの?」


「いや……ほら、そういうのはさ、他人に言うと叶わなくなるって言うから」


「あー、確かに。ごめんね」


「いや、いいよ」


 はぁ、でも正直なところ、五百円は痛いな。大した額じゃないとは言え、お小遣いの少ない高校生にはだいぶ痛手だ。


「ところで杏ちゃんは?」


「たぶん、おみくじかお守り売り場に居るんじゃないかな。行ってみよう」


 小鳥遊と一緒にお守り売り場に向かう。

 すると見慣れた巫女さんの姿が見えてきた。


「あーっ、いっくんと武田じゃん、来てたんだ!」


「……タツヤ?」

 

 そこにいたのは、巫女服姿のミカンとユウちゃんそして――。


「あら、武田くんに小鳥遊くん。初詣ですか?」


 ニッコリと笑う巫女服姿の桃園さん。


 もももも桃園さんの巫女姿!


 どういうことだ。こんなシーン、原作にあったっけ?


 っていうか、桃園さんの巫女姿すげー可愛いんですけど!! ポニーテールみたいな髪も可愛いし、赤と白の袴も似合う!


 何にせよ、ありがたい!!


「そうなんだ、二人で初詣に。ところで杏は?」


「杏ちゃんならおみくじのところにいるよ」


 ミカンが指さした先には、巫女服を着た黒髪ロリが。


 おお、本物の杏ちゃんだ!


「お兄ちゃま! 来てくれたのですか?」


 杏ちゃんが小鳥遊を見て目を輝かせる。


「そうだよ。こっちは親友の武田だよ。同じクラスで、同じ部活なんだ」


「そうでございますか!」


 杏ちゃんは俺をじっと見つめた。


「へえ、こんな地味な毒にも薬にもならなそーな男がお兄ちゃまの親友でごぜーますか! 釣り合わないでございますね!」


 ニパッと笑い、毒舌を吐く杏ちゃん。


 そういえばこのロリ、こういうキャラだったわ。


 マンガで見ている分にはいいけど、目の前でやられるとちょっとキツいな。何なんだその語尾は。小学校で虐められるんじゃないのか?


「でも、せっかくお兄ちゃまにできた親友でございますし、少しだけサービスしてやってもいいでごぜーますよ! 見たところ、高校生の割には奮発したようでございますし」


 俺の腕を引き、ぐいと本殿の方へ引っ張っていく杏ちゃん。


「え?」


 さささ……サービス!? サービスってまさか!?


 杏ちゃんが服を脱いで俺を誘惑する図が頭にくっきりと思い浮かぶ。


「だ、ダメだよ杏ちゃん、そ、そんな、小学生が性的なサービスだなんて!」


「性的なサービスではないでございます」


 杏ちゃんはジト目で俺を見やる。はー、良かった。危うく犯罪者になるところだったぜ。ま、俺は巨乳派だからツルペタ幼女には興味無いんだがな。


「サービスというのはこの私の神通力で、武田の未来を占ってやることでごぜーます」


 神通力??


 どういうことだ、そんな設定あったっけ。桃学はただのラブコメで、ファンタジーでは無かったはずなんだけど……。


 俺が困惑していると、杏ちゃんは神社の本殿の奥に俺を連れこんだ。


 神主が持ってる棒みたいなのをバサリバサりと振り回し、何やらむにゃむにゃと怪しい呪文を唱え始める杏ちゃん。


「……あの、ちょっと、杏ちゃん?」


 やばい。何だこの子、中二病か?


「――破ァ!!」


 杏ちゃんが叫ぶ。頭、大丈夫かな、この子。


「むむむむむ……出ました!」


 カッと目を見開く杏ちゃん。


「武田の願いは――」


「……俺の願いは?」


 俺がゴクリと息を飲み前のめりになると、頭のおかしいロリはニコリと笑った。


「武田願いは叶うでごぜーます!」


「おお、やった!」


 俺の願いは叶う?


 それって、桃園さんと小鳥遊をくっつけることができるということか!?


 例え占いだろうとイカサマだろうとこれは嬉しい!


「おっしゃ、ありがとう杏ちゃん!」


「――が!」


 ガッツポーズをする俺を、ジロリと杏ちゃんはにらんだ。


「が?」


「願いを叶えるためにはそれなりの代償をともなう。このことをおぼえておくのでごぜーます」


 杏ちゃんは目を光らせ、ニヤリと笑った。


「……はあ」


 代償? なんだそれ?


 まあいいや。とにかく占いでは良い結果が出たんだし、今年一年は良い年になるな!

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