第48話 クリスマスの劇
「――そんなわけで、次の目標は児童館で行われるクリスマスパーティーで劇をすることです」
俺は黒板に「クリスマス会」と書いた。
「はーい、クリスマスの劇って、何をやるの?」
ミカンが気の抜けた声で手を挙げる。
「それを今から考えたいと思うんだけど――何か良い案がある人はいるか?」
「うーん、『赤鼻のトナカイ』とか?」
小鳥遊が手を挙げる。
俺は『赤鼻のトナカイ』と黒板に書いた。
「他には?」
「他にはと言われてもねぇ」
「クリスマスが題材の劇は数が限られているでござる」
うーん、とみんなで考え込む。
「よし」
俺はパンと手を叩いた。
「それじゃあこうしよう。今度の休みにみんなで図書館に行こう。そして劇の題材になりそうな絵本を探すんだ」
「みんなで、ですか?」
桃園さんが不思議そうな顔をする。
「そう、みんなで、だ」
俺はニンマリと笑った。
そう、これが俺の新たな作戦――題して「グループ交際作戦」だ!
作戦の中身は……クリスマスまで、とにかくみんなで仲良くワイワイ過ごすという単純なもの。
だがこれで小鳥遊と桃園さんは絶対に同じ場所でクリスマスを過ごすことはできるし、例え恋愛フラグが立たなくても、みんなでワイワイ同じ目標に向かって頑張るってのはそれなりに楽しいだろうと思う。
つまり、恋愛フラグが立っても立たなくても、桃園さんは幸せになれる!
ふふ……我ながら完璧な作戦。
俺の計算に、今度こそ狂いはない!!
***
そして次の土曜日。
俺たちは全員で図書館へとやってきた。
学校にも図書室はあるが、子供向けの絵本となると、はやり町の図書館が良いだろう。
そんなわけで、俺たちは図書館で劇の題材になる子供向けの絵本を探すことにした。
それぞれが数冊づつ絵本を借りると、図書館内にある会議室で作戦会議を始めたのだが――。
「これなんてどう?」
小鳥遊が持ってきたのは『早く起きてよサンタさん』というお話だ。
クリスマスの日に寝坊したあわてんぼうのサンタさんが長靴を片方失くしたり、プレゼントを入れた袋が大きすぎて家から出られなかったりと、色々とハプニングに見舞われるという話だ。
「面白そう。子供たちも盛り上がりそうだし」
「でも、登場人物がほぼサンタさんだけでござるよ」
確かに、出番のことを考えるともうちょっとキャラの登場する作品がいいかもな。
「これはどう? 『空っぽのくつした』」
ミカンが持ってきたのは『ノッティングヒルの恋人』など名作映画の巨匠・リチャードカーティスの絵本。
見た目はそっくりだけど性格は真逆のサムとチャーリーの双子。おっちょこちょいのサンタさんはクリスマスの日、二人を見間違えて――というお話。
「これならサンタとチャーリー、サムと主要人物が少なくとも三人は出てくるでござるね」
「メッセージ性もあってためになりそう」
「でも、双子を似せるのが難しくないかな?」
悩んでいると、最後に桃園さんが一冊の本を持ってきた。
「あの、これはどうでしょうか」
持ってきたのは『O・ヘンリー短編』――子供向けの絵本ではなく、普通の書籍だ。
「大丈夫? 子供には難しくない?」
「大丈夫です。短いですし、簡単なお話ですから」
桃園さんが開いてみせたのは、短編集の中にある『賢者の贈り物』というお話だった。
読んでみると、確かに短いし、どこかで読んだことのあるお話だった。たぶん、俺も子供の頃にどこかの劇で見たのだろう。
「うん、これいいね」
小鳥遊が声をあげると、横にいたユウちゃんもうなずいた。
「私もいいと思う。クリスマスにぴったり」
「拙者もでござる。さすが桃園さんですなぁ」
ミカンと山田も同意する。
「じゃあ決まりだな。クリスマスの劇は『賢者の贈り物』にします」
パチパチパチと拍手が上がる。
「さて、作品は決まったし、あとは配役だけど――」
「武田くん、今回は僕が脚本をやりたいんだけどいいかな?」
小鳥遊が手を挙げる。
そういえば小鳥遊は脚本家志望だったな。
俺はふむ、と考えた。
今までは小鳥遊と桃園さんをカップル役にすることばかりを考えていた。
だけどそれで特にフラグが立った感じはないし、ここは小鳥遊に脚本を任せてみるか。
別に焦ってカップル役にしなくても同じ部活で過ごすだけで仲良くはなれるし、小鳥遊の脚本の才能を見せることで、桃園さんの好感度も上がるかもしれない。
「いいよ、じゃあ、今回は小鳥遊が脚本で」
そんなわけで、次の劇の脚本は小鳥遊に決まった。
むふふ、どんな劇になるのかな。楽しみ楽しみ!
小鳥遊よ、頼むから脚本家としての才能を発揮させ、桃園さんをキュンとさせてくれよ!
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