第二章
13.クリスマスパーティーを盛り上げろ!
第47話 クリスマス会を盛り上げろ!
慌ただしかった文化祭も終わり、季節は晩秋を迎えた。
あれから俺は、特に何ということも無く、平穏な日々を暮らしていたのだが……。
「暇だ」
「暇でござるね」
演劇同好会の部室。ちくちくと衣装を抜いながら、俺と山田が同時に呟いた。
「むむっ」
お互いの顔を見つめ合う。
どういう訳か、俺と山田はこういう時にやたら気が合う。
認めたくは無いが、女性の好みも似ているし、俺と山田は思考回路がほんの少しだが似ているのかもしれない。
ごくごく少し、ほんのミジンコぐらいだがな。
「そうねぇ、来年まで特に予定もないし」
セクシーな魔女の衣装を着たミカンが足を組みかえる。
網タイツに包まれたスラリとした脚と、ムチムチの太ももが露出する。もちろんパンツを見せることも忘れない。
ふむ、今日は魔女の衣装に合わせた黒か。
「そうですね」
桃園さんも、赤と黒の可愛らしい小悪魔の衣装のまま下を向く。
露出度はミカンよりは少ないが、ピッタリとしたレザーの衣装が、桃園さんのボインとした胸とくびれたウエスト、そしてプリッとしたお尻のラインを惹きたてている。うむ、エロい。
「にゃん」
と、これは黒猫の衣装に身を包んだユウちゃん。体の凹凸は少ないが、可愛らしさでは負けない。
文化祭が終わり、俺たち演劇同好会は、完全に燃え尽き症候群になっていた。
文化祭で頑張りすぎたのもあるし、来年の四月に新入生歓迎会で劇を披露することは決まっているけど、それまでの次の劇の公演予定が全く決まっていない。
端的に言うと、俺たちは次の目標を完全に見失っていた。
そんなわけで、ハロウィンが近いということもあり、部室内では暇つぶしのコスプレ大会が行われていた、というわけだ。
ちなみに俺はオオカミ男、山田はミイラ男、小鳥遊は吸血鬼の衣装を身にまとっていたのだが、男のコスプレには興味は無いので割愛する。
――ガラリ。
と、勢いよく部室のドアが開いた。
「みんなー! 元気にしてるー?」
やってきたのは、文化祭が終わり部活を引退したはずの凛子先輩だ。
「先輩!」
「わー、久しぶり。元気にしてましたか!?」
ミカンが凛子先輩にがばりと抱きつく。
「うん、元気元気。みんなは? それ、衣装? ハロウィンの劇でもやるの?」
凛子先輩は、お土産のドーナツを机の上に置くと、みんなの衣装に目をやった。
「いえ、ハロウィンの劇はやらないんですが、これはただ暇で」
「そうそう、ただ何となく、気分を盛り上げるためにやってるというか」
「みんなでコスプレしてお菓子を食べてるんです」
「ふーん」
凛子先輩は俺たちの顔を見まわすと、腰に手を当てやれやれ、と首を振った。
「私が引退してどうなったかと思ったら……さては次の公演予定が決まってなくて、みんなだらけてるな?」
ドキリと心臓が鳴る。まさにその通りだ。
「駄目だよ~武田くん。せっかく部長の権限を君に譲ったのに、次の目標何も決めていないだなんて!」
凛子先輩にがっしりと肩を抱かれる。
「はは、すみません。何をしていいのか分からなくて」
実を言うと、原作では文化祭の後、クリスマスだとかバレンタインだとか恋愛ごとのイベントは色々とある。
だけど演劇同好会の活動に関しては特に描写されてなかったから何をしていいのか分からなかったのだ。
「そういう時は、過去の活動記録を見るなり、私に聞くなりしないと」
「はい、すみません」
「まあ、そんなことだろうと思って、こちらもお土産を持ってきたよ」
凛子先輩が持ってきたのは、「クリスマス会」と書かれたチラシだった。
「クリスマス会?」
「そう。ゴールデンウィークに劇を披露したあの児童館でね。劇の評判が良かったらしく、また頼むって」
「そうなんですか?」
そんな展開、原作には無かったぞ?
まぁでも、今まで散々、原作に無いことをやって来ているから、今さらか。
と、ここで俺は気づいた。
――待てよ、でも新たなイベントがあるってことは、これは桃園さんを幸せにするチャンスでは!?
俺は桃園さんの顔をチラリと見た。
あの文化祭以来、俺は少し作戦を変えることにしていた。
文化祭では、小鳥遊と桃園さんの仲がまだ深まってもいないのに、無理矢理二人をくっつけようとして失敗してしまった。
そこで俺はこの反省を生かし、新たに行動指針を考えた。
行動指針その一は、桃園さんに悲しい思いをさせないこと。
まずは桃園さんに楽しい学園生活を送って貰うことを一番の目的とすることに俺は行動指針を変えた。
小鳥遊とくっつけよう作戦はその二に優先順位を格下げだ。
これまでは、俺は小鳥遊と桃園さんを二人っきりにさせようと頑張りすぎて、これが裏目に出た。
しかし、よく考えたら高校生活は三年あるし、文化祭のダンスだって、残りあと二回ある。
そして原作で最後に小鳥遊と結ばれたのは、一年の時に一緒にダンスを踊った桃園さんではなく、三年の時にダンスを踊ったユウちゃんだった。
つまり重要なのは今ではなく、三年になった時に小鳥遊が誰を選ぶかということだ。
文化祭の時に桃園さんが小鳥遊ではなく俺をダンスに誘おうとしたことから見るに――今の時点では小鳥遊の好感度は、なぜかモブである俺より低いらしい。
だがここは焦らずに、三年かけてじっくり好感度を上げていけばいい。
一年のうちはグループ交際――部員たちで仲良くワイワイ過ごすことに重点を置き、自然に小鳥遊と桃園さんに仲良くなってもらうことに重点を置こう。
待ってろよ、桃園さん。
今度は、文化祭のダンスの時のような目には合わせない。
桃園さんにはみんなでワイワイ楽しく、最高のクリスマスを過ごしてもらう。そしてあわよくば、小鳥遊とももっと仲良くなってもらう!
そのためにも……クリスマス会に向けて、何か新たな作戦を考えなくては。
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