11.わくわく!?文化祭!

第39話 いざ、文化祭へ!

 そんな訳で海合宿が終わり、季節は秋へと移り変わった。


「武田ー、そっち運んでくれないか?」


「ああ」


 俺は文化祭で行われるクラスの出し物の準備に追われていた。


 文化祭は一日目と二日目に別れており、一日目は各クラスの出し物、二日目に演劇同好会の劇が行われることになっている。


 ちなみにうちのクラスの出し物はメイド喫茶で、俺はメイド喫茶で使う看板やメニュー表作りの担当だ。


 本来ならば文化部の生徒はクラスの出し物の準備に関わらなくてもいいはずなのだが、うちのクラスは文化部員が多く、文化祭が明日に迫っているというのに作業が全然進んでいなかった。


 そのため、今日は主役である小鳥遊と桃園さん以外の部員でクラスを手伝うことになったのだが――。


 実を言うと、これは桃園さんと小鳥遊を二人っきりで練習させるという俺の作戦だ。


 今日はユウちゃんと凛子先輩もクラスの手伝いがあるって言うし、今ごろ二人は手と手を取り合ってロマンチックなひと時を過ごしているに違いない。


「武田氏ー、できたでござるよ!」


 俺が看板を運びながらニヤニヤしていると、山田に呼び止められる。


 山田が作っていたのは、メイド喫茶で使われるメイドの衣装だった。


「……げっ、なんだこりゃ!?」


 俺は山田が作った衣装を見てあんぐりと口を開けた。


 山田が作っていたのは、ぴっちりとした黒のバニーガール風の服にエプロンを付けたような……要するにかなり露出度の高い衣装だった。


 えっ、ちょっと待て、こんなエロい衣装、原作に無かったぞ!?


 原作では、ちょっと胸の谷間は強調されてるけど、デザイン自体は普通のメイドカフェみたいな服だったはず……。


 そう思っていると、担任のエロ女教師、紫乃先生がコツコツとハイヒールを鳴らしてやってきた。


「ちょっと待ちなさい! 学生がこんなハレンチな衣装を着るなんてダメよ」


 だよなぁ。


 すると山田がメガネをキラリと光らせた。


「ほぉ、そんな事を言っていいでござるか?」


 山田は紫乃先生と生徒会長が絡んでいる写真をこっそりと見せた。


「――っ!」


 紫乃先生は顔を真っ赤にすると、コホンと咳払いをした。


「……ま、まあ、でも文化祭だから、多少は仕方ないわね」


「おお! いいでござるか!?」


 ま、マジかよ。あのエロエロ衣装をクラスの女子が……桃園さんが!?


「武田ー」


 頭の中がピンク色になっている俺を誰かが呼んだ。


「ねぇちよっと、武田!」


 ミカンにぐい、と襟首を捕まれる。


「何だよ痛ってーな!」


 俺は母猫に首筋を噛まれて運ばれる子猫じゃないんだぞ!?


「ごめんごめん。これ、喫茶店で出すクッキーなんだけど、味見してくんない?」


「なんだ、そんな事か」


 ミカンに頼まれてクッキーを一つ受け取る。チョコチップが入ったオーソドックスなクッキーだが、チョコがゴロゴロ入ってて食感もサクサクしていて中々美味しい。


「うん、美味いな」


「でしょ!? これは売り切れ間違いなし!」


 と、ここでミカンが声のボリュームを落とす。


「ところで、武田に一つ頼みがあるんだけど」


「頼み? 何だ?」


「ほら、文化祭二日目の夜に、後夜祭のダンスがあるじゃない? あそこでいっくんと踊れるようにしてほしいの」


 ああ、そういえば文化祭では劇もあるけど、後夜祭のキャンプファイヤー囲んでのダンスが見どころなんだった。


 原作では、確か小鳥遊は一年目はミカン、二年目は桃園さん、三年目はユウちゃんと踊ったんだよな。


 重要なのは三年生の時点でのダンスの相手だから、一年目の今回は原作通りミカンと踊らせてやるべきか?


 いや、でも小鳥遊と桃園さんの仲があまり深まっていない今、ここは一つ一つのフラグの積み重ねが大切だ。一つのフラグも無駄にはできない!


 文化祭では、何が何でも小鳥遊と桃園さんにダンスを踊ってもらわないと。


 ――となると、ここでミカンの頼みを聞く訳にはいかない。けど、何と言って断ればいいんだ?


「そういうのは、ミカンが自分で頼んだら?」


 困り果てた俺は、とりあえずそんな風に言って誤魔化した。


 ミカンはぷうっと頬を膨らませてむくれる。


「もちろん自分で誘うわよ。でもほら、例えば、いっくんがダンスの時間を忘れて忙しそうにしてたら教えてあげるだとか、そういうことならできるでしょ?」


 確かに小鳥遊のことだから、文化祭の後片付けに追われるあまりダンスのことを忘れる、みたいなことは普通に有り得そうだな。


「まあ、それぐらいならいいよ」


「ありがとう!」


 ミカンがガバリと俺の腕に抱きつく。


「お礼に、もしいっくんと踊れたら、その後で武田と踊ってやってもいいわよ」


 何だそれは。


「いや、俺はいいよ」


「ははーん、さては既に約束してる女の子がいるな?」


 このこの、とミカンが俺の腕を小突く。


「いや、居ないけど」


 俺が素っ気なく言うと、ミカンは目を丸くした。


「ウソ」


「本当だよ」


「へーえ。私、武田はもっとモテると思ってた」


 どこを見てそんな事を言ってるんだ?

 俺はこっちの世界でも元いた世界でも非モテだぞ。


「まあ、いいわ。それじゃダンスのこと、よろしくね!」


 ヒラリとスカートをはためかせ、パンツを見せながら去っていくミカン。


 俺はオレンジ色のパンツを目に焼き付けながら決意した。


 よし、決めた。文化祭のダンスは、絶対に小鳥遊と桃園さんのペアで踊ってもらうぞ!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る