第40話 萌え萌え!? メイド喫茶!

 そして文化祭一日目。


 女子たちがメイドの格好で給仕をしている間、俺と小鳥遊は外で演劇同好会のビラ配りをしていた。


 クソっ、早く女子たちがあのメイド服を着ているところが見たいのに、ビラ配りが終わらないと帰れないなんて生殺しもいい所だ。


「演劇同好会、よろしくお願いしまーす!」


 俺は半ばやけくそになりながらチラシを配った。

 そのかいもあって、思っていたよりもハイペースでチラシははけていく。


「さすが桃学、文化祭を見に来てくれる人も多いんだなあ」


 人混みを見ながらしみじみと漏らすと、ふふふ、と小鳥遊が爽やかな笑顔で笑った。


「そうだね。ほら、うちの学校って制服が可愛いし、女子のレベルも高いって噂らしいから、他校の男子がよく来るみたいだよ」


「そうなんだ」


 確かに来客を見ると、他の学校の制服を来た男子が多い。みんなレベルが高いと評判の桃学の女子を見に来ているのだ。


「もしかして、小鳥遊も可愛い女の子目当てでこの学校にしたとか?」


 俺が尋ねると、小鳥遊はブンブンと首を横に振った。


「いやいや、中学校のころはそんな噂知らなかったし、ただ単に入れそうだったから入っただけだよ。大学進学率も良いらしいしね」


「そうなんだ」


「武田くんは、どうしてこの学校を選んだの?」


 ドキリと心臓が鳴る。

 どうしても何も、気がついたらこの学校の生徒に転生していたのだが。


 でも不思議なことに、中学の先生に薦められてこの学校に入ったことや、親に私立でお金がかかるからと反対された記憶もうっすらとある。なんとも不思議だ。


「いや……俺も、偏差値が丁度いいからかな。家も近いし」


「そうなんだ。……あ、チラシが無くなったね」


 気がつくと、手元のチラシはすっかりはけてしまっていた。


「俺もだ」


「どうする? チラシ、もっと刷って来た方がいいかな?」


「それより少し休憩して、教室の様子を見てこないか? 他のクラスも見て回りたいしさ。ユウちゃんのクラスとか、凛子先輩のところとか」


「いいね」


 二人で一年生の教室の方へと向かう。


 学校の廊下は、在校生の作った折り紙の花やリボン、華やかなイラストで飾り付けられ、まるでいつも通っている桃学じゃないみたいだ。


 何となく落ち着かない気持ちで階段を登っていると、途中で、男子生徒の一軍とすれ違った。


「なぁ、このメイド喫茶っていうのがすげぇらしいぜ!」

「へー、そんなに可愛い子がいるのか?」

「可愛い子ぞろいだし、一人ヤバい露出度のメイドがいるらしいぜ。巨乳で美尻でマジでエロエロだって!」

「へえっ、文化祭でそんなエロいメイドやっていいんだ? さすが桃学!」


 エロいメイドって……山田の作ったあのバニーメイドか?


 まさかとは思うが、本当にあの格好で給仕していたとは!


「ねぇ、メイド喫茶って」


 小鳥遊がチラリと俺の顔を見る。


「ああ。メイド喫茶をやってるのは俺たちのクラスだけだ」


「やっぱり。誰だろう、そんな露出度の高い衣装を着てるのって」


「そうだな」


 さっきの男子生徒たち、「巨乳で美尻」とか言ってたな。


 まさか桃園さん!?


 桃園さんが、他校の男子の前であんなあられもない格好を!?


 いや、待てよ。巨乳といえば、ミカンも桃園さんほどじゃないけど巨乳だし、プリッと上がった美尻だ。まさかミカン? 他にクラスメイトで巨乳な女子っていたっけ?


 俺たちは急ぎ足で一年A組の教室へと向かった。


 A組の前につくと、教室の前は興奮した男たちで人だかりができていた。うわ、なんだこりゃ。


「ちょ、ちょっと通してください」

「俺たち、A組の生徒です」


 人混みを掻き分け教室の中に入る。


 すると、例のバニー衣装を着たハレンチな巨乳メイドの姿が目に飛び込んできた。


「……し、紫乃先生!?」


 そう、例の破廉恥バニー衣装を身にまとっていたのは、まさかの紫乃先生だったのである。


 いや、確かに紫乃先生は桃園さんをしのぐGカップ巨乳だけれども!!


「おかえりなさいませぴょ~ん♡ ……って、あなたたち、どうしてここに?」


 腰に手を当て、セクシーに髪の毛をかきあげる紫乃先生。


 どうしてって……それはこっちのセリフだし!!


「い……いえ、チラシ配りを終えたのでクラスの手伝いをしようかと……」


 目を点にしながら答える小鳥遊。


「それより先生、その格好は……」


「ああ、これ? メイド喫茶の制服として生徒が作ったんだけど、生徒に着せるには少々教育に悪いし、かといってせっかくの生徒の力作を無下にするのも悪いから、先生が着てみることにしたの」


 ピロンとエプロン部分を持ち上げ、悪びれる様子も無く一回転して見せる紫乃先生。


 いやいや、生徒が着るのは教育に悪いのに、何でアンタが着るのはOKなんだよ!?


 っていうか後ろ! この間見た時は気づかなかったが、おしりの部分がTバックになってるじゃないか! エロすぎ!


「おやおや、このクラスは中々の盛況じゃないか。頑張っているねぇ」


 すると金髪をオールバックにした真っ赤なスーツにサングラスの派手な男が現れた。


「こ……校長先生!」


 この学校の名物校長、マッチョ校長こと茶畑正人先生だ。


 やばい。まさか校長に見つかるなんて。


「むむ……し、紫乃先生、その格好……」


 マッチョ校長の顔が曇る。

 紫乃の先生も緊張の面持ちで姿勢を正す。


「は、はい」


「ちょっと後ろを向いてもらえますかな」


「はい……」


 紫乃先生がクルリとうしろを向く。プリプリの丸いおしりがあらわになった。


 あーあ、怒られるぞ、こりゃ。いくら何でもセクシーすぎるもん。下手したらメイド喫茶中止かも?


 そんな事を思っていると、マッチョ先生がおもむろに親指を突き上げた。


「大臀筋と中臀筋、小臀筋の鍛え方が素晴らしい! 一体どのようなトレーニングを!?」


 ……は?


「え、ええと、ブルガリアンスクワットに、フロッグヒップリフト、ライイングヒップアブダクションに、クアドラプトアブダクションを少々……」


 紫乃先生が呪文の様に筋トレの名前を列挙する。マッチョ校長は、それをうんうんとうなずきながら聞いていた。


「エクセレント! それでこの素晴らしい臀部を作り上げることができるのか!」


 感動のあまり拳を振り上げるマッチョ校長。


「生徒諸君、皆も紫乃先生のように筋トレに励み、プァーフェクトボディーを手に入れるのだ!」


 その場にいた生徒やお客さんたちがザワザワし始める。


「よく分からんけど、校長先生に認められたみたいだぞ」

「すげーな、さすが私立」

「俺たちの通ってる高校とは違うぜ」


 いや……俺の知ってる私立高校とも全然違うけど??


 そんな訳で、俺たちのメイド喫茶と紫乃先生のハレンチ衣装はなぜか校長先生公認となったのだった。

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