第17話 生徒会長の説得をしよう!
「全く何なんだよ、あの生徒会長は!」
横暴じゃないか!
俺が腹を煮えた切らせながら歩いていると、凛子先輩がポツリと漏らした。
「でも、生徒会長がああいう考えなのも仕方ないかも」
「えっ?」
「実は、去年までの演劇同好会は、名ばかりで、ほとんど活動実績の無い同好会だったんだ」
活動実績が無い? いったいどうして。
「ほら、うちの学校、部活に入るのがほぼ強制じゃん?」
凛子先輩の話によると、去年までは、本当は部活に入りたくない帰宅部志望の人たちが、演劇同好会を隠れ蓑にしていたのだそうだ。
「それで幽霊部員が多くて、演劇同好会としての活動は去年まであんまりできなかったってわけ」
「はあ、なるほど」
それで生徒会長は、部室を増やすことにあんなにも反対だったってわけか。
「もちろん、ちゃんと演劇をやりたかった人もいたんだけどね。私も含めて。でもやっぱり、人数も足りなくてあまり活動できなくてさ」
「そうだったんですね」
と、そこで俺の頭に良いアイディアが思い浮かぶ。
「ってことは、つまり生徒会長に、演劇同好会としてきちんと活動しているところを見せればいいんじゃないですか」
俺の意見に、凛子先輩がうなずく。
「うん。私もそう思う。でも、どうやって? 演劇の大会で実績を残す、なんて言っても、大会は夏だし、演劇の強豪校に勝てるわけもないし」
「簡単ですよ。みんなの前で劇をすればいいんです」
「みんなの前で?」
凛子先輩が怪訝そうな顔をする。
「そうです。できれば児童館とか老人ホームとかで。そこで観客が楽しんでいるところを見てもらえば、演劇同好会の活動の意義が分かってもらえるはずです」
気だるそうだった凛子先輩の瞳がぱあっと輝く。
「なるほど、それは良い考えかもしれないね。演劇が社会貢献になるところを見てもらえれば、生徒会長も納得するかも」
うんうん、とうなずく凛子先輩。
「実は、うちの母親、児童館で働いてるんだ。だから、そこで子供たち向けに劇の発表ができないか聞いてみるよ。武田くん、ありがとう」
まぁ、アイディアも何も、演劇同好会の最初の公演が町の児童館ってのは本家桃学のストーリー通りなんだけどな。
「あ、おかえり、二人とも!」
「おかえりなさい。どうでした?」
ホウキとモップを手にした小鳥遊や桃園さんたちが出迎えてくれる。
「ああ、うん。同好会は一応、承認されたんだけど、隣の部屋を使うのはやっぱり厳しいみたい」
俺が答えると、小鳥遊たちはガックリと肩を落とした。
「そうなんだ」
「とりあえず、今後の予定としては、児童館で劇ができないか聞いてみることにしたから、それまではこの部屋を片付けて何とかして広くしましょ」
「はい」
「そうですね」
そしてその日、俺たちはひたすら部室の掃除や片付けをして過ごした。
***
そして数日後。
「武田くん、ちょっといいかな?」
休み時間。凛子先輩がうちのクラスにやって来て俺を呼ぶ。
「何ですか?」
凛子先輩が見せてきたのは、児童館の今後の予定を書いた紙だ。
「ほらここ。ゴールデンウィークのイベント予定に、無理矢理、桃学演劇部の公演を入れてもらっちゃった」
えへへ、と笑う凛子先輩。
確かに、五月五日の予定に『桃色学園演劇同好会公演』と書かれている。
「えっ、凄い。仕事が早いですね」
「えへへ、実はうちのお母さん、ここで働いててさ、児童館だよりもお母さんが作ってるんだよね」
「へえ、凄い」
俺が児童館の予定表を見つめていると、凛子先輩は真面目な顔で俺を見た。
「でさ、今からこの予定表を持って、生徒会長の所にちゃんと活動実態があるってことを説明しに行こうと思うんだけど、一緒に来てくれない?」
「はい、分かりました」
少々面倒くさいが、ここは副部長になってしまったし、仕方ない。
俺と凛子先輩は、生徒会長を説得するため、生徒会室へと向かった。
――コンコン。
「失礼します!」
カチャリ……。
鍵はかかっておらず、すんなりとドアが開く。だけど中には生徒会長はおらず、もぬけの殻だ。
「あれ? いない」
「どこかに出かけてるのかな」
すると、生徒会長の机の上に、文化部の部費の一覧表を見つけた。
「なんだこれ」
凛子先輩が表を手に取る。そこに書かれていた演劇同好会の部費は、他より遥かに少ない。もはや嫌がらせとしか思えない数字だった。
「武田くん、見てよこれ。酷くない?」
「酷いですね」
いくら去年までの演劇演劇同好会に活動実績が無かったからって、こんなに露骨に予算が少ないなんてことあるのか?
「よし、決めた。部室のことだもけじゃなく、部費も増やしてもらうように交渉しよう。そうじゃないと、これじゃ活動できないよ」
「そうですね」
凛子先輩の言うことはごもっともだ。
でも――。
俺は辺りをキョロキョロと見回した。大丈夫か? 生徒会長がいない間に無断で書類を見たりして。
そんな風に思っていると、ドアの外からカツカツという足音とともに女子の声が聞こえてきた。
「さ、こちらへいらして。今日は生徒会室には誰も来ませんわ」
凛子先輩の顔が青くなる。
「まずい、生徒会長の声だ!」
「見つかる前に生徒会室を出ましょう」
俺は急いで生徒会室を出ようとした。
――が、その時、凛子先輩がぐいと俺の腕を引っ張った。
「ここに隠れよう!」
「え、ええ!?」
先輩に腕を引かれ向かった先は、掃除用具入れだった。
先輩は、問答無用で俺の体を掃除用具入れに押し込むと、自分もその中に入った。
ええ!? 何でそうなるの!?
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