第18話 掃除用具入れの中の情事

 凛子先輩は、掃除用具入れに俺を押し込むと、自分もその中に入った。


 いやいや、こんな所に入った所で見つかるって! 絶対に普通に「鍵が開いてたので入っちゃいましたーすみません」って部屋を出た方がいいだろ、アホかこの女!


 ――と、そこまで考えて俺は気づいた。


 ハッ。そういえば、原作でも凛子先輩と小鳥遊が掃除用具入れに隠れるシーンがあったな。


 でも今は俺が代わりに掃除用具入れに入っている。


 ということは、小鳥遊と凛子先輩のフラグを潰すにはこのまま掃除ロッカーに入っている方がいいのかもしれない。


 待ってろよ、小鳥遊。俺はお前の貞操を守るために仕方なく凛子先輩と一緒に掃除ロッカーに入るっ!


 とはいうものの――。


「せ、狭い……」


 狭い掃除用具入れの中で、先輩と二人、抱き合うような体勢で密着してしまう。


「しっ、静かに」


 もぞ、と体を動かしながら注意をする先輩。暖かな体温。先輩のCカップ美乳がむにゅっと腕に当たった。


「は、はい……」


 とはいえ、先輩のむっちりとした太ももが俺の太ももを挟んでるし、腕には柔らかいおっぱいが押し付けられているし、シャンプーかな? 林檎みたいなほのかに甘い香りもするし。


 先輩は細身でモデル体型だと思っていたけど、女の子の体って男と違って柔らかいんだな……。


 ヤバい。凛子先輩は推しヒロインじゃないけど、これだけでもうドキドキしてしまう。


 小鳥遊のやつ、よくこの状況で平気で居られたな!


 すると程なくしてドアが開き、生徒会長と担任のセクシー女教師、紫乃先生が入ってきた。


 紫乃先生? どうしてここに?


 掃除用具入れの隙間からじっと生徒会室の中を見つめる。


「それで、演劇同好会の奴ら、隣の部室まで使いたいと言ってきたんですの」


 生徒会長が教室の真ん中に仁王立ちする。


 どうやら、ちょうど演劇同好会のことが話題になってあるらしい。


 紫乃先生は長い髪を色っぽくかき上げた。


「ふーん、いいじゃないの。ちょうど演劇同好会の部室の隣なんでしょ。なんで使わせてあげないの?」


 そうだそうだ。紫乃先生の言う通りだ!


「あんな真面目に部活動をしない連中に使われるくらいなら、空き教室にしておいたほうがマシですわ」


 だが生徒会長はフンと横を向いた。


 な、なんだと~! 俺たちは去年までの演劇同好会までとは違うのに。


 思わず飛び出してぶん殴ろうかと思っていると、紫乃先生がいきなり生徒会長の腰を抱いた。


「ふふっ、そうカッカしないの。可愛い顔が台無しよ?」


「せ、先生……」


 生徒会長と紫乃先生が見つめ合う――かと思うと、激しく互いの唇を重ね始めた。


 ――え??


「んっ……先生っ」


 生徒会長と先生が唇を離すと、二人の唇の間にツーと透明の糸が引いた。


 顔を真っ赤にする生徒会長の唇を指でなぞる紫乃先生。


「ふふ、がっつかないの。お楽しみはこれからよ」


 な……ななななな!?


 まさかまさかの百合展開!?


 俺があっけに取られていると、二人の絡みはさらにエスカレートしていった。


「ああん、学校の中でするのって、背徳感があってイイですわ♡」


「ふふ、あなた、本当に可愛いわね。支持者たちが見たらどう思うかしら?」


 ええっ、学校の中で、そんなことまでする!?


 ロッカーの中からじっと二人の様子を見ていると、隣で凛子先輩がゴクリと生唾を飲みこむ音が聞こえてきた。


 見ると、先輩は耳まで真っ赤になっている。


「な……なんて破廉恥な」


 ムニムニと先輩のおっぱいが激しく俺に押し付けられる。


「せ、先輩……あまり動かないで……」


 するとどこからが声が聞こえてきた。


「むふ……むふふふ……も、もう、辛抱たまらんでござるぅ!」


 ん? この声は……。


「だ、誰ですの!?」


 生徒会長がこちらへコツコツと歩いてくる。


 ば、バレる!


 そう思い観念していると、生徒会長は窓のそばに行き、カーテンを勢いよく開いた。


「げげっ、バレたでござる!」


 そこにいたのは――やはりというか、スマホを手にした山田だった。


「あ、あんた、演劇部の……何でこんな所にいるんですの!」


「ふっ、生徒会長と先生の絡みはすべてこのスマホで録画したでござるよ! 観念するでござる!」


「な、何ですって!?」


 あられのない姿のまま顔を青くする生徒会長。


 良かった。俺たちのほうはバレてないみたいだ。ホッとひと息ついたその瞬間――。


 ドンガラガッシャーン!!


 油断したせいか、思わず動きが大きくなる。大きな音がして掃除ロッカーが開いてしまった。


「誰!?」


「…………あ」


 掃除ロッカーから転がり出た俺と凛子先輩は、紫乃先生と生徒会長の前に投げ出された。


「武田氏――」


 目を丸くする山田たちの前で、俺はとりあえず叫んだ。


「山田だけじゃない。お前らの痴態は、俺もこの目でしかと見ていたぞ!」


 もうこうなりゃヤケだ。


 ***


 そしてそれから、結局隣の部屋は部室として使うことが許可され、演劇同好会の部費も増額された。


「えーっ、隣の部屋、使えるようになったの!?」


 俺と凛子先輩の報告を聞いたミカンが口をあんぐりと開く。


「すごいね!」

「どうやって説得したんですか?」


 目を輝かせる桃園さんと小鳥遊。

 俺と凛子先輩は互いに顔を見合せた。


「な、なぁに、俺たちが以前の演劇同好会とは違うと説得しただけだよ……ははは」


「そ、そうでござるよ……武田氏が児童館での公演を計画してると言って説得したら感激していたでござる! さすが武田氏」


 山田も話を合わせてくれる。


「いやいや、山田くんの活躍あってこそだよ!……なはは」


 俺たちは白々しく嘘をついた。


「へえ、そうなんですね。すごいです、武田くん!」


「……タツヤ、すごい」


 俺を尊敬の目で見てくる桃園さんとユウちゃん。


「い、いや、俺は特に何も……」


 俺が脂汗をかきながら乾いた笑みを浮かべていると、小鳥遊もうんうんとうなずいた。


「しかし、あの生徒会長も高飛車なのかと思いきや、意外といい人なんだね」


 いや、いい人というよりは、いやらしい人だったけど……まあ、いいか。


 部室と部費を増やす代わりに生徒会長と紫乃先生の痴態は口止めされたから話さないでおくけど。


「二人だけの秘密でござるな♡」


 なぜか山田が気持ち悪い笑みを浮かべてくるけど。


 ていうか、二人じゃなくて、凛子先輩もいたから!


 でもまあ、部室の問題も解決したし、小鳥遊の貞操も守ったし、とりあえず結果良ければ全てよし、かな?

 

 そんなわけで、部室と部費の問題は解決したのであった。


 

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