第16話 先輩キャラの凛子さん

「とりあえず、去年演劇同好会だったっていう先輩を探そう」


「うん、そうだね」


 俺たちは生徒会室を出ると、凛子先輩を探しに文化部棟へとやってきた。


「えーっと、演劇同好会、演劇同好会……」


「あった、ここでござるよ!」


 文化部棟の一番奥。ジメジメと日当たりが悪く、おまけに蛍光灯が壊れていて真っ暗なその場所に演劇同好会の部室はあった。


「本当に、ここで合ってるの?」


 ミカンが眉をひそめると、小鳥遊が表札を指さした。


「合ってるよ、ほら」


 小鳥遊が指をさしたその先には、かまぼこ板のようなボロボロの板に、注意して探さなければ絶対に見つからないであろう薄い文字で「演劇同好会」と書かれている。


「こんな所に、本当にその凛子先輩とやらがいるでござるか?」


 馬鹿にしたような顔をする山田。


「分からないけど、とりあえず入ってみよう」


 ゴクリ……。


 俺は息を飲み込むと、恐る恐るドアを叩いた。


 コンコンコン。


 暗い廊下にノックの音が響く。


「はーい?」


 少しして、ちょっと気だるそうなハスキーボイスが聞こえてきた。どうやら凛子先輩はこの部室の中に居るようだ。


「失礼します……」


 緊張気味にドアを開けると、赤髪でポニーテールの先輩が出迎えてくれた。


 ずらりと高い背に、モデルのように長い手足、人形のように整った顔。彼女が第四のヒロイン、凛子先輩だ。


「あんたたち、こんな所に何の用?」


 凛子先輩がじろりと冷たい瞳で俺たちを睨む。


 実の所、凛子先輩は少し切れ長の目で愛想がないだけで悪い人ではない。むしろ曲者くせものぞろいの桃学では一番まともな常識人キャラだったりする。


 だが、そんな事は知らない他のメンバーは、凛子先輩の迫力にたじろいでいるようだ。


 仕方ない。


 俺はずい、と前に出て説明を始めた。


「あの、じつはかくかくしかじかで……」


「そう」


 俺の説明を聞くと、凛子先輩はあっさりとうなずいた。


「いいよ。じゃあ、そっちの演劇同好会と今私のいる演劇同好会を合併しよう」


「本当ですか!?」


「うん。部長は私でいいよね? 一応、三年生だし」


「はい、構いません」


 よっしゃ。これで演劇同好会がやっと発足できる!


 だけど……。


 山田がキョロキョロと辺りを見回す。


「それにしても、この部室、随分と狭くて汚いでござるねぇ」


 山田の言う通り、六畳ほどの部室は、古い衣装や大道具で埋まっていて、とてもじゃないけど、部活動をできるとは思えなかった。


 しかもただでさえ狭いのに、桃学の原作よりも二人多い七人の部員になってしまっているし。


「せめて隣の部屋も使えると良いんだけど」


 小鳥遊が隣の部室をチラリとのぞき見る。

 隣の部屋は空き教室になっており、ここよりだいぶ広く見える。


 確かに、この教室を大道具や衣装置き場、隣を練習室として使えれば便利だろう。


「なるほど。確か、文化部棟の鍵は生徒会長が持ってたと思うから、生徒会室に同好会の設立届を出しに行くついでに聞いてみるね」


 凛子先輩が書類にペンを走らせながら提案してくれる。


「ところでさ、部長は私でいいにしても、副部長は誰にする?」


 ペシペシと書類をペンで叩く凛子先輩。


 そういえば、本家桃学では、ここで小鳥遊が副部長に決まり、それで部長の凛子先輩と二人きりの場面が増えて、際どいシーンなんかもあったりしたっけ。


 凛子先輩を同好会から排除することには失敗したけど、ここで小鳥遊を副部長にすることは絶対に阻止しなければならない!


 俺はサッと手を挙げた。


「じゃあ、俺、やります」


「おお、やる気があっていいねぇ」


 凛子先輩は嬉しそうに俺の名前を「副部長」の欄に書いた。


 ふふ、これで、凛子先輩と小鳥遊とのフラグは消えたはずだ。


「それじゃあ、私と武田くんは二人で生徒会室に書類を出しに行くから、みんなはこの部屋を片付けてもらるかな?」


「はーい!」


 そんなわけで、俺と凛子先輩は再び生徒会室へと向かった。


 ***


「あら、あなたたち、性懲りも無く来たんですの?」


 生徒会長がフフンと笑って足を組みかえる。もちろん俺たちに絶対領域とパンツを見せつけるのも忘れない。


「はい。生徒会長の言う通り、凛子先輩と合流して、すでにある演劇同好会に参入する形にしました。これなら大丈夫でしょう?」


 俺が書類を渡すと、生徒会長はしぶしぶといった様子で受け取った。


「ま、仕方ないですわね」


「それと、お願いがあるんですが」


 凛子先輩が切り出す。


「何かしら?」


「実は部室が狭くて、隣の部屋も使わせてもらいたいんですが」


「何ですって?」


 生徒会長の眉がピクリと上がる。


「あなたたち、同好会として承認してやっただけでもありがたいのに、その上、部室にまで文句をつけるだなんて、生意気ですわ」


「で、でも、部員が七人に増えて――」


 生徒会長はキッと俺たちを睨みつけた。


「そんな要求、私は絶対に認めませんわ!」



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