8.新台本はインドとともに
第27話 美女と野獣とインド
「さて、児童館での公演も大成功に終わり、いよいよ次なる演劇同好会の目標ですが」
凛子先輩が、八月二十六日と黒板に書いた。
「この日に、演劇コンクールの地区予選があります」
えっ、演劇コンクール?
そんな展開あったっけ。
桃学はそんなスポコン部活動物じゃなくてイチャイチャエロハーレムラブコメだぞ!?
密かに焦っていると、凛子先輩は続けた。
「……ですが、同好会では大会に出場できないそうなので、次の目標は九月の文化祭になります」
ホッと息を吐く。
それなら桃学の原作通りだ。たしか原作では、文化祭で美女と野獣をやるんだよな。
ああ、『美女と野獣』楽しみだなあ。きらびやかなドレスのダンスシーンがロマンチックだし、主題歌がまた良いんだよな。
俺は小鳥遊と桃園さんがドレスを着てダンスを踊るシーンを思い浮かべた。
うんうん、これは絵になる!
前回は、ユウちゃんがお姫様だったけど、今度こそは桃園さんにお姫様役をやってもらうんだ!
「……ということで、これからの予定としては劇の演目と配役決めをしようと思っています。あとは、八月の十日ごろに海辺の別荘で合宿の予定も考えているので、みんな、この日は空けておいてね」
「合宿」の一言に、部員たちがざわめく。
でた、海での合宿!
個人的には、文化祭よりそっちのほうが楽しみなんだよな。海で水着姿を披露するってのは、ラブコメの醍醐味だし。
水着意外にも、浴衣に花火。夏って青春って感じがしていいよな!
「ふふ……ふふふ」
「せんぱーい、また武田が人の話聞いてませーん」
ミカンが手を挙げると、山田もヤレヤレと首をふった。
「全く、武田氏ときたらまーたおっぱいのことばっかり考えてるでござる」
失礼な。ちょっと水着のことを考えてただけだし!
コホンと咳払いをする。
「聞いてたよ。劇の演目を決めるんだろ?」
「なぁんだ、聞いてたのか」
ミカンがサッと手を挙げる。
「はいはーい、私、『バーフバリ』か『HIGH & LOW』がやりたいです!」
おいおいおい。
『バーフバリ』って確か、三時間くらいあるインド映画だろ。無理だし。『HIGH & LOW』も明らかに人数足りないし。
「蜜柑、『バーフバリ』はちょっと長すぎない? それに戦闘シーンとか大変そうだし」
小鳥遊が苦笑する。
「えーっ、そうかな? でもそこを何とかするのが脚本の腕の見せどころでしょ」
いやいや、その脚本の小鳥遊が無理っつってんだから無理だろ。
「でも、インド映画っていうのも面白いかもしれないね」
と、これは凛子先輩。
「『バーフバリ』がダメなら『ムトゥ~踊るマハラジャ~』どうかな、面白いんじゃない?」
凛子先輩の提案に、賛同の声があがる。
「賛成!」
「歌ったり踊ったりするの、面白そうですね」
「インド……斬新」
まずい。みんなの頭の中がすでにインドになってる。
山田が謎のボリウッド風インド歌謡を歌いながらダンスを踊っているせいだ。
クソっ、こいつめ、余計なことをしやがって。妙に歌も踊りも上手いのがよけいに腹が立つったら。
あー、ヤバい。心なしか部室にはカレーの匂いがしてきて、象の幻覚まで見えてきた。
俺はロマンティックな『美女と野獣』が見たいのに~!
とりあえず流れを変えようと提案する。
「歌って踊るのがいいならさ、『美女と野獣』とかどうかな。でなきゃ『アラジン』とか』
「んー」
凛子先輩が微妙そうな顔をする。
な、何だよ。何が悪いんだ!?
ミカンがバカにしたように笑う。
「なんていうかさ……武田って普通だね」
「普通で悪かったな!」
な、何だよみんなして。普通で何がダメなんだよ。せっかくの文化祭だし、ロマンティックな劇にしたいじゃないか!
「あのー」
小鳥遊がおずおずと手を挙げる。
「確かに、僕もインド映画は尺が長いし、それを文化祭の劇の長さにするのは難しそうだと思う」
よし、言ったれ、小鳥遊。インドなんかより、桃園さんと『美女と野獣』をやりたいと!
「えー、でも」
「だからさ、『美女と野獣』の物語をベースに、それをインドっぽい味付けにすればいいと思うんだ!」
拳を握り熱弁をする小鳥遊。
は……はあ??
ちょ、ちょっと、小鳥遊、何言って……?
「なるほど、面白そうですね」
桃園さんまで小鳥遊の案にうなずく。
ええっ、桃園さんもそれでいいの!?
「それも良さげでござる」
「いいと思う」
「じゃあ、決まりね!」
凛子先輩が宣言すると、部室は暖かい拍手に包まれた。
「そんなわけで、文化祭の演目は『インド風美女と野獣』に決まりです!!」
一体、どうしてこうなった!?
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