第13話 突然の入部届け
無事に、ユウちゃんと小鳥遊との出会いのフラグをへし折った俺。
だがそれから数日後、事件は起こったのである。
「武田くん、隣のクラスの女子が呼んでるよ」
昼休みに入り、いつものように四人で裏庭の木の下でご飯を食べようと用意していると、不意にクラスの女子に声をかけられる。
「へっ? 隣のクラスの女子って――」
全く身に覚えが無いんだけど。
そう思いながらドアの方を見ると、見覚えのあるショートカットにメガネの美少女。
「ユウちゃん!?」
そこにはなぜかユウちゃんが立っていた。
ななな、何でユウちゃんがうちのクラスにいるんだよ!?
動揺しながらも、俺はユウちゃんの元へと向かった。
「ユ、ユウちゃんじゃないか! 何でうちのクラスに!?」
ユウちゃんは俺の質問には答えず、無言で一枚の紙を俺に押しつけた。
そこには「入部届け」と書かれていた。
入部届けって――まさかユウちゃん、演劇同好会に入る気か?
何でだ。せっかく小鳥遊とのフラグを折ったと思ったのに、何でなんだ!?
「武田くーん、どうしたんですか?」
「何、何? 女子に呼び出されてんの? 武田のくせに生意気!」
そこへ桃園さんとミカン、小鳥遊がやってくる。
だーっ。今、お前らがやってきたら話が余計にややこしくなるっ。
「あれ、この子もしかして、入部希望者?」
小鳥遊がめざとくユウちゃんが手に持っていた入部届けを見つける。
ユウちゃんはコクリとうなずいた。
「本当? 良かった。僕たちの他にも演劇がやりたい人がいたなんて、ありがたいよ」
感激した様子の小鳥遊。
あーあ。まずいぞこりゃ。完全にユウちゃんが入部する流れだ。どうしてこうなった。
俺は頭を抱えた。
そして俺たちは、あの裏庭の木の下に集まり、お昼ご飯を食べながらユウちゃんの話を聞くことになった。
「えっと、青梅ユウちゃん、でしたっけ」
桃園さんがユウちゃんの名札をチラリと見る。ユウちゃんはコクリとうなずいた。
「ユウちゃんは、中学校の時に演劇部だったんですか?」
ユウちゃんはフルフルと首を横に振る。
「違うんですね。あ、でも未経験者でも全然大丈夫ですよ」
そのやり取りを聞いて、ミカンが不思議そうな顔をする。
「でも、中学校で演劇部じゃなかったのに、どうして高校から始めようと思ったの? っていうか、どこで演劇同好会のことを知ったの?」
いや、本当にどうしてだ? 小鳥遊とのフラグはへし折ったはずなのに。
まさか、そんなに演劇に興味があったのか?
するとユウちゃんは、スッと俺のことを指さした。
「武田タツヤ」
ん?
「あ、もしかして、武田くんと同じ部活に入りたくて、ですか?」
桃園さんが俺とユウちゃんの顔を交互に見やる。
「えっ、そうなの?」
ユウちゃんはコクリとうなずいた。
「な、何でまた俺と同じ部活を?」
俺が尋ねると、ユウちゃんはポツリポツリと話し始めた。
「先生に……何か部活に入れと言われた。でも……やりたい部活、ない」
ユウちゃんのペースに合わせているとまどろっこしいので要約すると、ユウちゃんは入部届けに「入りたい部活、なし」と書いて先生に出したそうだ。
しかしそこで、特別な事情がない限り、何か部活に入らなくてはいけないと言われ、戻されたらしい。
先生からは、やりたいことがないのなら、仲のいい友達と同じ部活に入ったらいいと言われたそうだが――。
「それで何で俺と同じ部活? 他に友達は――」
ユウちゃんはブンブンと首を横に振った。
えっ、まさか他に友達がいないのか? ぼっちなの? 同じクラスの女子は? いくら無口キャラって設定でも、そんなことある?
「まぁ、理由は何でもいいじゃない、入れてあげようよ」
ミカンがユウちゃんの背後からやってきて抱きつく。
「この子、可愛いし。ねっ、いっくん」
「うん、そうだね」
小鳥遊はユウちゃんの顔をじっと見た。
「青梅ユウさん、だっけ。きみ、意外と女優に向いてるかもしれないよ。ほら、顔を上げて。前髪を切ってメガネをとればきっともっと可愛いくなるよ」
き、来た。あのセリフだ!
ちょっと原作とは違うけど、結局こういう展開になってしまうとは。
こんな時のためにあらかじめ手は打っておいたけど、果たしてユウちゃんの反応は――。
ドキドキしながらユウちゃんの顔を見ると、ユウちゃんは不機嫌そうにメガネに手をやった。
「……私、この髪型が気に入ってる。メガネも。だから、余計なこと言わないで」
ユウちゃーーーーん!
俺は心の中で大きくガッツポーズをした。
良くやった、ユウちゃん!
よしよし、これでユウちゃんと小鳥遊のフラグはへし折れたな。
全ては俺の計画通りだぜ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます