第14話 ファンの心理

「ご、ごめんね。ただ、メガネが無くて前髪が短いほうが僕の好みだっていうだけ。今のユウちゃんも可愛いよ」


 小鳥遊が慌ててフォローをする。


 ユウちゃんは「ん」と言ってうなずくと、くるりと俺の方へ向き直った。


「タツヤはメガネの子が好き。そうだよね?」


「え? ああ、うん」


 本当は、一番好きなのは桃園さんみたいな巨乳でおっとりした癒し系タイプなんだけど、と言いかけてやめた。


「へえ、てっきり武田の好きなタイプは巨乳だとばっかり思ってた!」


 というミカンのセリフは無視をする。


 横でなにやらユウちゃんが「きょにゅぅ……」とか言いながら胸をペタペタやっているが、それも気にしないことにする。


 ちなみにファンブックによると、ユウちゃんのバストはAAカップらしい。やっぱり胸が小さいことを気にしているのだろうか。


「そ、そういえば、ミカンも家ではメガネだよね?」


 小鳥遊が話題を変えてくれる。


 へえ、そうだったのか。

 それは知らなかったな。ファンブックにも載ってなかったし。


「そうね。だっさいから絶対に学校にはかけてこないけど」


「そうかな、ミカンのメガネ姿も可愛いと思うけど?」


 小鳥遊の笑顔に、ミカンの顔がゆでダコみたいに赤くなる。


「えへへ、そう? やだもー、いっくんってば」


 小鳥遊に褒められ、満足げにするミカン。


 へっ。ま、お前はいずれ「ミカンは妹としか思えない」とか言われてフラれるんだがな。


「へえ、ミカンちゃんもコンタクトだったんですね。実は私も中学までメガネだったんですよ」


 桃園さんが嬉しそうにする。


 うん、それは知ってる。よーく知ってる。

 過去話に出てきた三つ編みでメガネの桃園さん、可愛かったなあ。


 今の桃園さんもいいけど、その時の桃園さんも密かに俺のお気に入りだったりする。


「そうなんだ。じゃあ、ここ三人全員目が悪いんだね」


「一度みんなでメガネをかけて登校してきても面白いかもしれませんね」


「いいね、それ。面白そう!」


 女子たちがメガネトークで盛り上がっていると、不意に俺のスマホが光った。


「ん?」


 何気なくスマホを開くと、山田からメガネ姿の桃園さんの画像が送られてきたところだった。


 あいつ、また性懲りも無く――っていうか、俺たちの会話聞いてやがったな! どこに隠れてやがる!


 まあ、それはそれとして、桃園さんのメガネ画像は保存しておくけどさ。


 俺が桃園さんの写真を保存していると、隣に座っていたユウちゃんがひょい、と俺のスマホをのぞきこんだ。


「あ」


 俺とユウちゃんが同時に声を出す。


「どうかしたの?」


 不思議そうな顔をする小鳥遊。


「あ、いや、何でもないよ。ははは……」


 俺は笑って誤魔化した。


 まずい。


 ユウちゃんに、桃園さんの画像を保存している所を見られた。


 ヤバい。変態だと思われる。

 この事がユウちゃんから他のみんなにバレたら俺の居場所が無くなる。そうなると、俺の計画が全て台無しになってしまう!


 だけどその後、ユウちゃんは黙々とお弁当を平らげ、特にあの写真について触れることは無かった。


 ふう、ユウちゃんが無口で助かったぜ。


 だけど、いつこの事が他の人に漏れるか気が気じゃない。


 昼食を取り終わり、皆で教室に戻ろうとする道すがら、俺はこっそりユウちゃんを呼びだした。


「あのさ、ユウちゃん、俺のスマホ見ただろ」


「ご、ごめん」


 ビクリと体を震わせるユウちゃん。

 どうやら勝手にスマホを見たことを怒られると思ったらしい。


「あ、いや、別に怒ってるわけじゃなくて――その、俺が見ていた写真のことは他のみんなには内緒にしてもらえるかな?」


「分かった」


 ホッと息を吐く。良かった。ユウちゃんなら口は固いだろうし、こうやって口止めしておけば他に漏れる心配は無いだろう。


 しかし、ユウちゃんにはこれで桃園さんのストーカーだと勘違いされたかもしれないが。


「その……」


 ユウちゃんが言いにくそうに口を開く。


「タツヤは、桃園さんが、好き?」


 へ? ああ、そういう風に解釈してくれたか。


「あ、いやいやいや。その、俺はただのファンだよ。遠くから見てるだけで十分幸せなんだ。だから特に付き合いたいわけじゃないよ」


「ファン……」


 ユウちゃんが俺の言葉を噛み締めるようにうなずく。納得してくれたのか?


 ユウちゃんはチラリと上目遣いに俺の顔を見上げた。


「……なら、私も、タツヤのファンでいい?」


「へあ?」


 なんだそりゃ。俺のどこにファンになる要素が?


「ん、まあ、別にいいけど」


 ユウちゃんは嬉しそうに笑い、うなずいた。


 ユウちゃんって可愛いけど、無口だしこういう所がよく分かんないなー。


「ねぇねえ、武田くん」


 俺が首をひねっていると、後ろを歩いていた小鳥遊に声をかけられ、俺とユウちゃんは同時に振り向いた。


「え、何?」


「実はさっきみんなと話してたんだけど、同好会の設立届を出してから一週間経つのに未だに承認の知らせが来てないじゃん? だから、放課後にでも生徒会室に行って聞いてみようかって話になって」


 確かに、一週間も経つのに同好会承認の連絡が来ないのは気になるな。

 原作の桃学では、立ち上げてすぐに同好会の活動をしていた気がするのに。


「ああ、いいよ。じゃあ今日の放課後、みんなで行ってみよう」


「うん、そうしよう」


 そんなわけで、放課後、俺たちは同好会立ち上げの件で生徒会室に行ってみることになった。


 

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