第5話 伝説の木の下
次なる俺のミッション、それは小鳥遊と桃園さんを仲良くさせること。
俺と小鳥遊とミカン、そして桃園さんの四人で昼食をとることで、小鳥遊と桃園さんの仲を深める作戦だ。
原作では、親友の山田がその役割だったが――山田と同じ手を使うのは少々癪に障るが、第一印象が最悪だった二人の仲を縮めるには、食事を共にするのが一番だ。
俺は、窓際で一人外を見ていた桃園さんに狙いを定めた。
ゴクリ。
「あ、あのー、桃園さんだよね? 今から俺たち学食に行くんだけど、一緒に行かない?」
「お昼ご飯? 私とですか?」
桃園さんが
「ああ。ほら、入学早々、二人もめちゃったたって聞いたからさ」
俺はぐいと親指で小鳥遊を指さした。もうこうなりゃヤケだ。
「俺、小鳥遊と友達になったし、せっかくなら二人に仲良くなってほしいと思って。ほら、桃園さんも他の地区から引っ越してきたからまだ友達いないでしょ」
桃園さんは困惑した顔で僕と小鳥遊を交互に見た。
「確かに、お昼ご飯を一緒に食べる人がいないのは寂しいですが、私が良くても、向こうは嫌なのでは?」
「いやいや、小鳥遊は良い奴だから大丈夫。そういうこと全然気にしないから」
「でも」
「それにほら、男子だけじゃなくて女子も居るしさ」
俺が小鳥遊の後ろにいたミカンに目線をやると、桃園さんの表情が少し和らいだ。
「男子二人に女子一人なのは可哀想だろ。だから頼むよ」
まあ、実際にはミカンは小鳥遊と飯が食えさえすれば、そんなこと気にはしないだろうがな。
「そう、なんですね。女子が居るのであれば、私も行きます」
俺が両手を合わせて頼み込むと、桃園さんは渋々といった様子で立ち上がった。
はー、ミカンを排除しないでおいて良かった! まさかこんな所でミカンの存在が役に立つとは。
そうだよな、女子が一人だけってのも気まずいよな。
「おーい、桃園さん、いいって」
小鳥遊とミカンのところに二人で合流する。
桃園さんは少し緊張した様子で「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「じゃあ決まりね。行くんなら早く行くわよ。学食混んじゃう」
ぐい、とミカンが桃園さんの腕を無理矢理組む。おい、馴れ馴れしいぞ、くそビッチめ。
「は、はい」
だけどミカンのこの行為により、桃園さんは安心したように少し頬を緩ませた。
「よし、じゃあ、行こうか」
こうして俺たちは、四人で学食へと向かうこととなった。
***
「わあ、ここが学食かぁ」
「すごい人だね」
超マンモス校らしく、豪華だとウワサの桃学の学食。俺も行くのを楽しみにしていたのだが……ずらりと並ぶ行列に、思わず怯んでしまう。
お昼時ということもあり、人、人、人の波で溢れかえっており、大声で叫ばなくては隣の人と会話もできないほどだ。
「ねぇ、学食、混んでるみたいよ」
「本当だ。ヤバいな、これは」
あわてて四人で列を離れて作戦会議をすることにした。
「どうする? 行くのはやめて購買で何か買って教室で食べる?」
「そうしましょうか……」
ええ、せっかくここまで来たのに、教室で食べるなんて何だかつまらないなあ。
――と、その時、俺の頭に良い案が思い浮かんだ。
「そうだな。昼ご飯は購買で買おう。でも、せっかくだし教室じゃなくて外で食べようぜ。俺、昼飯を食うのにピッタリな場所を知ってるんだ」
そう、物語の舞台にふさわしい、とびっきりの場所だ。
***
「わあ、ここ、いいわね!」
やってきたのは校舎の裏庭にある大きな桃の木の下だ。
よく晴れた青い空。歩いたせいか少し蒸し暑いけど、木の下は影になっていて涼しいし、時おり木の葉を揺らす風の音が心地いい。
「お弁当を食べるのにぴったりですね」
桃園さんも気に入ってくれたようだ。
それに、この木はお弁当を食べるのにピッタリなだけじゃない。
「聞くところによると、この木の下で告白すると、その二人は永遠に結ばれるっていう伝説があるんだって」
「へえ、ロマンチック!」
ミカンがうっとりとした顔をする。
そう、桃学の作中で何度も登場したこの木は、小鳥遊とヒロインたちが愛を深めるラブロマンスの舞台のうちの一つでもある。
マンガの中ではここに来るのは小鳥遊とヒロインたちだけだったが、せっかくマンガの世界に来たんだし、俺もこの中に加わって良いよな。
「本当だ。涼しいし、いいね」
「ここでお弁当食べたら気持ちよさそう!」
俺たちは、気持ちよく晴れた青空の下、四人で昼食を取り始めた。
いいなぁ。これでこそ青春って感じだ! マンガの中に転生したかいがあった!
「ほら」
感動にひたっている俺に、ミカンが不意にパンを投げてよこす。
「え? 俺はミカンの手作り弁当じゃないのか?」
キョトンとしていると、ミカンは顔を真っ赤にして叫び出す。
「ば……バッカじゃないの!? あんなグチャグチャな弁当食べられるわけないじゃない!」
ぷい、とそっぽを向くミカン。
「後でお金返しなさいよね!」
ミカンはてっきり小鳥遊以外には冷たいのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
それを見て、桃園さんがフフッと笑った。
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