第6話 仲直り

 わざわざ俺にパンをくれるなんて、ミカンも意外にいい所があるんだな。


「うふふ」


 俺とミカンがそんなやり取りをしていると、それを横で見ていた桃園さんが笑う。


「あ、ごめんなさい。お二人、仲が良いんですね」


 ミカンの顔がかあっと赤くなる


「べ、別に仲良くなんかないわよ! こんな変なやつに私のお弁当を食べられたくないだけ」


「変だなんて酷いな」


「どう見ても変でしょーが」


 まあ、考えてみれば、確かにお弁当シェイクを食べようだなんて変なやつだな。


「それにしても――」


 ミカンがじっと桃園さんを見つめる。


「な、なんでしょうか?」


 たじろぐ桃園さんの手を、ぎゅっとミカンは握りしめた。


「桃園さん、あなた、すっごい美少女だね!」


 桃園さんの顔が真っ赤になる。


「ええっ、私ですか? い、いえ、私はそれほどでは無いですよ。それにミカンさんだって可愛いじゃないですか」


 いやいや、俺も桃園さんは可愛いと思うぞ!


「何言ってるの。凄く可愛い顔してるし、おっぱいも大きいし――んげっ、何これ、凄い大きいおっぱい!」


 ミカンが桃園さんの後ろに回り込み、後ろから、わしわしと桃園さんの巨乳を揉みしだく。


「ええっ、何これ。桃園さん、着痩せするタイプ?」


「ひ、ひあっ、見ないでください。揉まないで下さい! やめてくださいー!」


 涙目になる桃園さん。


「な、何これ、柔らかいっ。メロンのような大きさと重量感なのに、まるでマシュマロのようにとろける柔らかさ。このおっぱいは、まるで神の領域!」


「ひ、ひえっ、やめてくださいぃ!」


 おお、俺はラブコメ好きだけど、百合も全然いけるんだよな。これはこれでヨシ!


『ふひ……ふひひひひ……これはこれで良いでござるな』


 俺が前かがみになっていると、どこからか不気味な声が聞こえてきた。


 ん? 何だ今のは?


 まさか、俺の心の声が漏れた!?


 ――いや、まさかな。


 誰かが俺たちの様子を見ている? でもいくら探してもそれらしき姿は見えないし、気のせいかな。


 俺がキョロキョロとしていると、小鳥遊が少し顔を赤らめ、困った顔をした。


「やめろよミカン、桃園さんが嫌がってるだろ」


「ご、ごめんなさぁい」


 小鳥遊にたしなめられ、ミカンがしゅんとなる。


 さすが小鳥遊、紳士だなぁ。


「いえ、私はそんなに気にしてませんから。ただあまり、こういったやりとりに慣れていないもので」


 桃園さんは真っ赤な顔で乱れた胸元を直す。


「そうだぞミカン。桃園さんはお前みたいにいつもパンツを見せてる系女子じゃないんだぞ」


 俺が言うと、ミカンの頬がかっと赤くなる。


「み、見せてなんかないわよっ」


「見せてるつもりじゃなくてもいつも見えてるっつの」


「それはアンタがエロいからでしょ? 勝手に見んじゃないわよ」


 ムキになるミカン。まぁ、エロいことは否定できないが。


「パンツ」


 と、ここで小鳥遊の顔が急に真剣になる。


 あ、パンツといえば、小鳥遊、桃園さんのパンツを見ちゃったんだっけ。


「そういえば桃園さん、今朝のことだけど――」


「は、はい」


 桃園さんはビクリと肩を震わせる。


「本当にごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」


 小鳥遊が真剣なまなざしで頭を下げた。


「あ、あれですか」


 桃園さんの顔が真っ赤になった。


「今朝のことでしたら、わざとじゃないし、事故ですよね。それをあんな風に叩いたりしてすみませんでした」


「いやいや、悪いのは僕だよ」


「いえいえ。今朝のことは忘れて下さい。私は大丈夫ですから」


 頭を下げ合う二人。良かった、どうやら打ち解けたみたいだ。


「よし、じゃあ仲直りの記念に握手でもしようか」


 俺が提案すると、桃園さんがキョトンとした顔をする。


「握手、ですか」


 小鳥遊が天使のような笑顔で手を差し出す。


「いいよ、しようか」


「は、はい、分かりました」


 桃園さんは顔を真っ赤にしながら小鳥遊の手を握り返した。


 照れながら握手をする二人に、こちらまでニヤニヤが止まらない。


 よしよし、いい感じだ。


 くう、この初々しさがまた堪らないなあ!


 俺がムフフと笑っていると、桃園さんが俺に笑いかけてきた。


「武田くん、ありがとうございます」


「え? ああ、な、何が?」


 戸惑っていると、桃園さんは少し恥ずかしそうにに切り出した。


「私、武田くんに誘われなければ、友達もできずひとりぼっちでしたし、小鳥遊くんとも気まずいままでした。本当にありがとうございます」


「いやいや、そんなこと! ただ俺は、桃園さんが寂しい思いをしたり、悲しい思いをするのは嫌だなーって」


「そうなんですか。優しいですね」


 やった。桃園さんに褒められた!


 ――じゃなくて! ここで俺の好感度を上げてどうする。ここは俺じゃなくて小鳥遊の株を上げておかないと。


「いや、俺は別に桃園さんどうこうというよりは、クラスの雰囲気が暗くなるのが嫌なだけだし? それよりも、小鳥遊と仲良くしてやってくれよ。スゲー良い奴だからさ 」


 必死にまくし立てると、桃園さんはクスリと笑った。


「はい、分かりました。武田くんがそう言うのなら」


 はー、良かった。これで桃園さんと小鳥遊の距離が縮まるな。


 これから二人は、原作みたいにどんどん絆を深めていくんだろうな。楽しみ楽しみ。

 

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