2.幼馴染の橙野さん
第4話 幼馴染の橙野さん
「やっほー、いっくん。お昼一緒に食べよ!」
昼になり、やたらテンションの高い女が小鳥遊の席に突撃してくる。
オレンジのボブヘアーに人懐こい笑顔。短いスカートをひるがえし、小鳥遊に抱きつくこのビッチは、小鳥遊の幼馴染、
「あれ、いっくん、お友達と一緒?」
あざとく小首を傾げるミカン。それを見て、小鳥遊が俺を紹介してくれる。
「うん。武田くんっていうんだ。こっちは幼馴染のミカン」
「私はミカン。いっくんとは幼稚園からの付き合いなんだよ! いっくんがいつもお世話になってます。よろしくぅ」
愛想を振りまくミカン。
ああ、お前のことならよく知ってるよ。
Fカップの桃園さんには及ばないけれど、胸は張りのある上向きDカップ。
極限まで短くしたスカートから覗くムチムチの太もも。動く度にチラチラと見えるオレンジ色のパンツ。
そのスタイルの良さで見るものを悩殺するエロ幼馴染のミカンは、ラブコメにありがちな幼馴染ヒロイン。
だが俺に言わせれば小鳥遊にしかパンツを見せない桃園さんに比べて、誰にでもパンツを見せるこの女はビッチ以外の何者でもない!
「やぁどうも。いつも親友の小鳥遊がお世話になってます」
俺がわざとらしく小鳥遊の肩を組むと、ミカンの眉がピクリと上がった。
このビッチは最終的に小鳥遊とはくっつかない、いわば桃園さんと同じ負けヒロイン。
とはいえ、こうも目の前でベタベタされては、桃園さんも気分が良くないに違いない。
邪魔な女は排除一択!
「小鳥遊、そういえばさ、この学校、学食が美味しいんだってさ。一緒に食いに行こうぜ」
小鳥遊にベタベタするビッチから引き剥がすように腕をぐいと引っ張る。
俺は単行本もファンブックも全部持ってるんだ。お前より小鳥遊のことを知ってるんだよ!
小鳥遊の親友はこの俺だ!!
「あ、うん、いいけど……」
「ま、待ってよ。私だって、いっくんとお昼ご飯、食べるんだからー!」
ぐい、と小鳥遊の反対側の腕を引っ張るミカン。
二人の間にバチバチと火花が散った――ような気がした。
ちっ、しつこいビッチだぜ。
「待ってってば。私、いっくんのためにお弁当作ってきたんだから。食べてくれるよね?」
「お弁当?」
「うんっ」
ミカンがオレンジ色のお弁当箱を取り出す。
「ほら、見て。私が早起きして作った自信作――って何よこれ!」
弁当箱を開けたミカンが、驚愕の表情を浮かべる。
彼女の自信作は、見るも無残にぐちゃぐちゃになっていた。
「酷い……私のお弁当が」
涙目になり、ペタンと床にへたり込む蜜柑。勿論オレンジ色のパンツを男子どもに見せつけるのも忘れない。
「えーん、走って学校に来たせいかなぁ」
俺はミカンのパンツを凝視しながらほくそ笑んだ。
ふふ、こんな事もあろうかと、ミカンがトイレに行っている間にこっそり弁当箱をシェイクしておいて良かった。計算通りだぜ。フハハハハ!
小鳥遊に近づくビッチは消え去れ! 悪霊退散!!
さあ小鳥遊、安心して桃園さんと――。
だが小鳥遊は泣きじゃくるミカンの横にしゃがみこむと、頭をポンポンと撫でた。
「まったく、ミカンは慌てんぼうさんだなぁ」
「いっくん……」
ミカンの頬がぽーっと赤くなり、腰も立たないほどメロメロ、といった顔つきになる。
だーっ、これだからイケメンは! すーぐそうやってすぐ女子の頭をポンポンして。
くそっ、言っとくけど、イケメンだから許されるのであって、もし俺が同じことをしたらセクハラで訴えられるからな!?
――はっ。
そこで俺は気がついた。
まんまとお弁当フラグを潰したと思ったが、ひょっとすると、優しい小鳥遊は、このぐちゃぐちゃの状態のお弁当でも食べると言い出すのではないか?
そんなことしたら、ミカンとの間にますますフラグが立ってしまう。
そんなことはさせるか!
「しょうがない。せっかく作ったけどこのお弁当は捨てるね」
涙声になるミカンの腕を、俺は慌ててつかんだ。
「ま、待て。それは俺が食う」
「は?」
ミカンは「こいつマジか」とゴミでも見るような顔をした。
「いや、でもこれ、ぐちゃぐちゃだし」
「それがいいんだよ。俺はちょうど弁当味のシェイクが飲みたかったんだ」
「ええ、何それ」
完全にドン引きのミカン。俺だって弁当シェイクなんて飲みたくねーよ。でも、こうなったら仕方ない。桃園さんのためだ。
「とにかくそれは俺によこせ。桃園さんも誘って四人で学食に行くぞ」
俺が言うと、小鳥遊は少し困ったような顔をした。
「えっ、桃園さん? 何で?」
何でって――あ、そっか。この時点では桃園さんと小鳥遊は別に仲良くないんだな。というか、第一印象は最悪なはずだ。
「あ、えーと……ほらお前、今日桃園さんと揉めてただろ。新学期早々、仲の悪い人を作るのは良くない。仲直りしよう」
苦しまぎれに言うと、小鳥遊は感激したような顔で俺の手を握ってきた。
「武田くん、僕の交友関係まで気遣ってくれるなんて、君って本当に良い奴だな」
う、キラキラした瞳がまぶしい。
「あ、当たり前じゃないか。ははははは……」
俺は乾いた笑いを浮かべた。
任せておけ。それもこれも、全部小鳥遊と桃園さんをくっつけるためだからな。
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