第9話 お墓参り

 「まじか」

 僕は思わず呟いた。


「えっと、遼くんが飼っていたユズちゃんが、今の栞がかわいがってるーちゃんってこと……?まぁ、飼ってるようなもんなのだけど」

「そうだね……。そういうことになりますね」と遼は訂正する。

「となるとこのお墓に眠ってるのがその、ユズちゃんの双子のお姉ちゃんのユイちゃんってこと、だよね?」

「はい、そうです。オレの不注意のせいで、ユイは轢かれたんです」

 

 ここまで世間が狭いとは思っていなかったし、とんだ裏話まで聞いてしまったけれど、根本的なところ、僕が見たアノ夢は正夢――に程近いものだったのだろう。登場人物の年齢層、猫、「轢かれた」というワード、どこをとっても間違いだと言う方が難しい。

「まじか」次は心の中に抑えて、かつ心の中で思いっきり叫んだ。


「それで守れなかった。オレは強くなるって勝さんにも告げたのに。ユイとユズのためにも強くなってみせるって誓ったのに。まだまだオレは弱いままなんです」と、遼は少し悔しそうに、また少し悲しそうにそう言い放った。

 人通りもなくしんとしている「お墓」の周りにいっそうの静寂が漂う。

 なんとも声を掛けづらい。が、こういうときはこの状況を作った張本人の僕に責任がある。

「ごめんな、昔の嫌なこと思い出させるようなこと聞いちゃって。もしユズちゃんに会いたくなったらいつでも家においでよ。しばらくはあいつらも居候してるだろうし」と言いながら僕は苦笑いを浮かべた。

「いえ」と矢継ぎ早に断って遼は続けた。「おととし、しーちゃんは約束してくれたんです。ずっと大切にしてくれるって。『二年後もかわいいかわいいユズちゃんでるーちゃんだよ』って言ってくれた。だからオレはしーちゃんを信じないといけないんです…………でもあのとき、どうしてしーちゃんは「二年後」って言ってたんだろう……?」

 僕はぎくりとした。あの小娘め、帰ったら説教タイムだ。とにかく「栞に聞いとくよ。きっと二年より先のことは想像できなかったんじゃないかな」とかなんとかいってその場を勢いだけで誤魔化した。今後もボロが出ないか心配だ。


「ありがとうね、色々聞かせてもらって」と僕は礼を遼くんに告げると、

「こちらこそ、誰にも言えなかったことが言えて少し落ち着きました」と返してきた。すごく立派な子だ。たぶん。

 でもやっぱり子供らしさは残っていて、

「元気かな……」と、か細い声でふと心配そうに遼くんが呟いたので

「そうだね、もうすぐ会えると思うよ」と声を掛けておいた。


 ばいばい、と手を振って「お墓」を後にした。

 今日は濃い一日だったな、と振り返った。

 どうせ家には居候猫・家出少女コンビが腹でも鳴らして待っているのだろう。

 オフの日、なんて言ってたのはどこのどいつだ。

 休日返上もいいところだ。

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