第4話 救済作戦

 昨日ここに着いたときにはもう夜遅くて、あたりは暗くなっていたからよく見えていなかったが、この神社、狛犬の銅像がない。代わりに猫の像ならあるのだが。狛猫とでも言うのだろうか。ここは若干猫にまつわる神社なのかもしれないな、と僕は朝、寝ぼけた眼でそれを見て思った。

 あれ?

 何か忘れてはいないか?

 

 見渡す限りに女の子の姿はない。

「あいつ……っ」

 

 小さな水たまりのような池でぱちゃぱちゃと洗顔を済ませるや否や、全速力で小高い山を駆け下りた。途中、昨日みた風景がちらほらと見て取れたから迷わなかったものの、栞が初めてここに来たとき、よく辿り着いたもんだな、と一人感心するほどには山道は細かった。


 うちの地元は栄えている地域が小さく、密集しているから、全員の顔は割れている。そして、虱潰しにあたっていってもそう時間がかからない、というのは、今、この捜索において非常に重宝している。

「あれ、珍しく急いどるね」

高橋さんとこのおばあちゃんだ。そういえば高橋さんも猫を飼っていた気がする。

「ええ。その、栞を探してまして……」

「しーちゃんならさっきコンビニの方へ走っとったよ。でも和也くんがしーちゃんと親しいなんて、知らなかったねぇ。そうそう和也くん、しーちゃん、ちょっとおっきくなっとらん?」

 そりゃそうだ。成長期の女の子の二年はちょっと大きくなるどころの見間違いではないだろうに。いろんな所において。

「ありがとうございます、久子さん」

「いえいえ。ほら、がんばって追いかけなよ」

 久子さんがくすりと笑っていたのが気になったが、さすがにおばあちゃんにまでロリコン認定されてたまるかと見なかったことにして思いっきり駆けた。

 コンビニのある角を曲がり、坂道を下る。すると左手に栞と昨日の少年の姿が見えた。二十メートル程離れているだろうか。声は届かないが、るーちゃんがそこにいることと、その少年が「大西」であることは彼が立っている家の表札でわかった。

 残りは昨日培ったであろう読唇術で読み取ってやろう……と思った。

 しかし僕がしようとすることは必ず失敗する。


「おいそこにいるのはクズヤじゃないの?」語尾に近づくほど声のボリュームが大きくなる。威圧的にまで聞こえるようになっていたときには栞は僕の目の前に立っていた。

「なにも一人で朝っぱらから行かなくてもいいじゃないか。心配……はしてないけど万一の時、怒られるのはどうせ僕なんだから……」

「和也はるーちゃんのことも、遼くんのことも何も知らない。だからいるといちいちめんどくさいの」

 なるほど。まぁそれは自覚していたから栞に話してもらおうとしていたのだが、ここまで邪魔者扱いとは。

「……で、どうなの今のところ」

「ん。遼くん、仲間外れにされたくなかったからああなってたんだって。もうるーちゃんを傷つけられるのも嫌だから手放すつもりらしいけどね」

 そうか。残りの三人に要するに脅されてやってた、ってことか。栞に話しかけるような子だ。ちょっとは気の弱い部分もあるのだろう。……とこれは偏見が過ぎる。声に出していたら双方からビンタが飛んできそうだ。

 

 本音と建前と最善策は分けて考えなければならない。

そうなるとこうするのが一番丸く収まるのではないだろうか。


「栞、その遼くんからるーちゃんをもらってきて。」

「……ん。やってみるね」

 

 また少女は回れ右をして少年の元へと向かっていった。

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