第八節

 一階に戻っても兄の姿はなく、多分広間に居るだろうと父に言われ、広間に戻ってきていた。

 そこには、広間でイプロスと対峙する兄と、土手の方には、手に布包みを抱えたアルビドの姿があった。


「お爺様、兄は何してるんです?」

 声をかけられたアルビドは、その方へ顔を向ける。

「ザックが、加速術式を慣らすところと言ってのぅ」

「加速術式?」

「一緒に座って、見ていてご覧。きっと面白い」


 そう促され、アルビドの隣に座り込むティノ。

 座り込むと、アルビドの布包みに飾られたプレートが目に入る。


 ――ケラウノス、完成したんですね……!


 彼の物となるそれを見て、胸が高鳴った。

  同時に、広間で変化があった。


「さぁ! かかってきな!」


 両の眼を開く狼。その鋭い眼光は本物のそれと変わらない。

 右のティターンを地面と平行になるよう持ち上げ、左のアイギスに一瞬目を配る。


「――ゥォオオオオオオン……!」


 突然の遠吠えと共に、それは疾走してきた。


 ――狼の得物は両手に短刀、背に長剣……。


 そこまで確認すると、狼は更にスピードを上げ、彼我の距離を一瞬で詰めてくる。

 眼前には、両の短刀を振り下ろしてくる狼。隙だらけの振り下ろしに見えるが、間合いを詰められたザックの対処は限られる。

 速い、と思う間もなくザックは対応した。


 自分の左はアイギスで受け止め、左足を軸に右に回っていく。

 地面と平行になった大剣は加速し、高速の回転切りを行うザック。


 だが、狼はそれに反応した。

 かわされた左腕の短刀を振り下ろしきって、姿勢を低くしたのだ。

 狼の頭上を大剣が通過していき、ザックを見上げる形となる。


 そのままの状態で、左腕の短刀で切り上げを放つが、ザックのアイギスが防ぐ。

 ザックは思考した。このままでは追撃をくらって終わると。

 勢いを殺さずに、また回転切りを放っても、同じ結果になるのは目に見えている。何かこの状況を覆す何かをしなければ、勝機はない。


 故に、ザックは軸足で跳んだ。これにより、後ろに回ろうとした勢いは、後方に流れていくことになる。


「――おっと」


 緩く回転しながらのバックステップの結果となり、ザックは狼の間合いから外れることになった。


 なんとか回避は出来ても、攻撃が当たらなければ意味はない。もっと速く、更に速くティターンを振らなければ。

 ザックはそう思い、前に出た。

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