第六節

 アルビドは、倉庫の前に来ていた。

 マナを流して施錠術式を解き、鉄製の扉を開けていく。

 倉庫の中には、世には出されない武具が保管されていた。

 さらに奥には、鍵穴が三つある鉄製の扉がある。

 鍵を一つずつ入れては回し、マナを流しながら扉を押していく。

 開かれた先は小さな空間だった。

 その空間の中には、布で包まれ形状が分からなくなっている、三つのグラシアシリーズがあった。

 それぞれに銘が書かれたプレートが飾られ、そのうち一つを両手で抱えるように持つ。


「いよいよ、かの」


 持ち上げたプレートには〝ケラウノス〟と書かれていた。

 とある神の武器名を冠したそれは、アルビドが生涯最後に造った一振りだった。

 持ったまま再度、施錠をし直して倉庫を出た老人は、これの持ち主になる人物を思う。

 初めて会ったときは、ただの若造だと思っていた。

 だが、その男に付き添っていた女は言った。こいつは後に英雄となる人間だと。

 それを聞いて、腹を抱えて笑ったのは今も覚えている。だが、孫たちが世話になるにつれ、その活躍は耳に入ってくる。気になって調べてみれば、生まれも育ちも不明。ただ分かった事は、たった二人しか居ないチームで危険種と戦っていたことだった。

 次第に孫たちと活躍していき、今では南東支部の狩人から、羨望の眼差しを集める人物になっていった。

 本当に英雄になるかもしれないと感じた時、ふと思い出す。初めて会ったときに、自分だけのグラシアシリーズを造って欲しいと依頼されていたことを。後に、孫たちの命を何度も救ってくれたとも聞いた。

 だから伝えた。

 スローンズの名にかけて、最高の一振りを造ってやると。

 それが、〝ケラウノス〟であり、孫たちのティターンとアイギスであり、ADT:SRだった。

 自分が造ったそれらで、世を救う英雄になって欲しいと思ったのは、最近のことだ。

 そしてコレが、彼の手に渡った時にどうなるか、考えるだけで老いた身体が漲ってきそうだった。


「――ん?」


 鍛冶屋に戻る道中で、そんな事を思っていると広間にザックの姿が目に映った。

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