第五節

 鍛冶屋の二階は、術式に関する書物と、仕切りで分けられた部屋が存在した。

 階段を上がり、乱雑になった書物を避けながら、手前から2番目の部屋を覗いた。


「ダーチさん、戻りました」


 名を呼ばれたスキンヘッドの男が振り向く。

 この男、ダーチ・メルヘルトは術式を専門とした研究者。ベットルにスカウトされ、この鍛冶屋で研究、開発を行っていた。


「準備できてるよ」


 ダーチは読みかけの本を置き、立ち上がって別の部屋に向かった。

 その部屋は、ダーチの作業場だった。見たことのあるパーツや、何に使うか不明な器具まで、使いやすいよう綺麗に整えられていた。


 ――本とかも、こんな風に片付けて欲しいんですけど……。


 そんな事を思いながら、目の前の長机に置かれた愛銃を見つける。

 正式名称は〝エロスの弓〟なのだが、気に食わないという事で〝アチモン〟と呼ばれている。

 ティノはそれを手に取り、感触を確かめる。


「流石ですね……! 以前と変わらずいい感じです……!」


 ダーチに依頼したとおり、どこもガタつきが感じられない。

 狙撃は精密射撃を必要とされるために、任務毎にメンテナンスをダーチに依頼していた。

 自分でやると、いつも何かしらのパーツを無くすので彼に任せているのだ。


「ティノもいい加減、自分でメンテしろよ? アチモンが泣いちゃうぞ」

「んー……。私がやると、いっつもどこかの部品無くすんですよねぇ。あちこち探しても見つからなくて……」

「ホントにアチモンが泣くぞそれ……。よくもまぁ狩人になれたもんだな」

「えへへ、戦う時はなんかこう……引き締まるというかなんというか」

「そんなんじゃロレンに逃げられちまうぞ? まぁまた、何か感じたら言ってくれ。何時でも見てやる」


 そう言いながら、幾つかパーツを手に取り、元居た部屋に戻っていくダーチ。


「もう! リーダーとは関係ないじゃないですか!」


 作業場の向こう側から笑い声が聞こえてくる。


 ――これとそれは関係ないじゃないですか……!


 とりあえず、スコープもゼロイン、マガジンボックスもスムーズに入る。トリガーも問題なく軽い。

 問題が無い事を確認したティノは、6個の弾倉を手に取ってポーチにしまい、スリングを肩にかけた。

 準備が整い、兄の元へ向かうために、1階へと降りていった。

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