第三節

 自分達の家は鍛冶屋を営んでいた。

 話によれば、スローンズという家系は、神様から直々に製法を教わったそうなのだ。

 それを代々引き継ぎ、今もこうして鉄を打っている。


「爺ちゃん戻ったぞー」


「お爺様。ただいま戻りました」


 鍛冶屋の正面、剣を手に持って仕上がりを確認していた老人が一人。


「あぁ、おかえり。ザックは奥、ティノは2階だ」


 二人は老人に礼を述べ、それぞれ向かっていく。

 この老人は、兄妹の祖父であるアルビド・スローンズ。

 鍛冶屋スローンズの総代を務め、齢90を越えても衰えない鍛冶の腕は、伝説級の武具を作るとして有名だった。

 今は跡継ぎである息子、ベットルの育成をしているため現場には入っていない。故に、こうして剣の出来を見ているのだ。


「いい感じじゃ。もう後を継いでも、いい頃合いかのぅ」


 剣を鞘に収め、立ち上がって壁に立て掛ける。


「はぁ、いかん。長生きするもんじゃないわぃ」


 痛む膝を摩りながら、鍛冶屋の奥に続く暖簾から顔を出す。


「おおい! ちょっと倉庫に出てくるぞ!」


 そう声をかけると、男衆が返事を返してくる。

 戻ってきた兄妹に、ある物を持っていってもらおうと考え、鍛冶屋の裏側にある倉庫に足を向けた。

 ある物とは、神から与えられた鉄、〝グラシアシ〟で造られた〝グラシアシリーズ〟だった。

 グラシアの産地も、製法も、とある神様との約束により、自分の跡継ぎにのみ、それらを知る権利を得る。

 しかしそれでもと、アルビドの元に数多くの人が訪れては聴取をされていた。

 それら全てを、神の教えには逆らえないと言って追い払ったという。故に、グラシアの秘密を知っている者は、この世で10人も居ない。

 アルビドが、これまで作製したグラシアシリーズは六つ。

 二つはザックが、一つはティノが所有している。

 後の二つは、まだ持ち主が居ないため、厳重に保管された倉庫内に置いたままだ。

 そして残った一つは、一昨年に製作を依頼してきた者の一振り。

 それが一応の完成となり、兄妹を通じて渡してもらおうと、倉庫に向かっていった。

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