死んだ手

恥馬

速い部屋

ボロボロな爪を見た。

私はマニキュアを、その爪に塗ってあげた。

「うん。」綺麗になった。

改めて部屋を見渡す。

畳が所々、ポッカリと口を開け、まるでブラックホール

の様な、黒く、光の届いていない空間がこちらを覗いている。

腕は、その空間から伸びていた。

爪はボロボロ。女性的な、華奢な。

数えきれない腕の中から、最も汚い爪を有した

腕を選び出し、私はマニキュアを塗ってあげたのだった。

私は顔を上げた。

一秒...二秒...


目線を爪に戻した。

私がマニキュアを塗ってあげた爪。

ボロボロだった。「やっぱり。」

私は黙って部屋を出た。扉には金属板のプレートが

埋め込まれており、こう彫られていた。

『時間の流れが速くなっております。ご注意下さい。』


私は自分の頬を触ってみた。

案の定、シワだらけだった。

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死んだ手 恥馬 @hazima

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