第4話 夜が開ける

目の前の光景を見て言葉を失った。

ベッドの上に女性が血まみれで倒れていたからだ。

「母さんっ!!」

ソウェイルは聞き取れないような声で叫ぶ。

私が動けないでいる間にも女性はどんどんと原型を失っていた。

恐るおそる視線を女性を襲うソレに向ける。

「――ぁっ」

ゴーストだ。

黒いモヤがかかり、姿形は狼のよう。

もしかして…私を探してここまで…?

恐ろしい。でもまるで凍りついたように足は動かない。

きらりと何かが光った。ゴーストの鋭い牙だ。

ダメだ…!!

ゴーストの牙が間近にせまったその時。

ザッ

「何!?」

ゴーストは木端微塵に切り刻まれていた。

強い力を感じた。怒りと憎しみにみちたちからを。

「あ、ぁ…」

足から力が抜け、へなへなと崩れる。

何が起きとのかわからない。

でも……助かった――。

落ち着きを取り戻し、ようやく周りの状況が目にとまった。

リズが入口で立っていた。

動こうとはしない。

リズの視線の先を見る。

「ソウェイル…」

ソウェイルは空っぽになったベッドを深く見つめていた。

ラグから溢れ出すちからをかんじる。

この力は――

「ジョブスキル…!」

こんなに強い力は今まで見たことがない。気持ちに力が比例するの…!?

抑えようとしても溢れ出るそのジョブスキルは時に人を助け、人を傷つける。

「リ、リズ!」

このままではリズに被害が及ぶかと思った私はリズと一緒に部屋を出た。

――彼には、時間が必要だと思った――






彼は一晩部屋から出てこなかった。その間、まだ幼いのにリズは泣くこともなく私に話をしてくれた。


「リズ…その、大丈夫?」

私はこのような時に何と言葉をかければいいのか分からない。

「慣れてるんだ」

「…」

こんな事が怒るのは日常茶飯事。だが、こんなにも落ち着いて居られるものなのだろうか。

「母さんはね、本当の母さんじゃあないんだ。……でもねっ!だから悲しくないわけじゃないんだ。母さんのこと嫌いじゃないしっ好きだし、大好きだしっっ!…………。」

本当に好きだったのだろう。なんとなくだけど私には分かった。

「でもね――」

でも…?

「涙か出ないんだ。本当の母さんが死んだ時も友達がみんな死んじゃっても、僕は…涙がでなかったっっ!…悲しいって何?僕わかんないよ…。」

リズは怒りに震えていた。

「僕ね、感情欠症なんだ。」

そういったリズの悲しげな笑顔に心が痛む。

感情欠症。その症状は多くの人に見られる。何か、とてつもなくショックな出来事があると、感情がコントロール出来なくなり、大きな衝撃によって感情の一分が働かなくなる。人により正常に働かなくなる感情は様々で、喜びや怒り、平常などのケースもある。

こんな小さな子にどんなに悲しいことがあったのだろう。


そう話をするうちにリズは眠ってしまった。

夜が開ける。

これが私達の旅の始まりだった。

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