第5話「特定条件で装備が外れると――(キャンセルされました)」
ついにその時は来た。
【
スキップ不能なデモムービーの中で、【ヴァイスダーク】は真っ赤な口で笑う。
今、最終決戦の時……だけど、ボクは自信がない。
でも、ミズキ様ならなんとかしてくれる。
空気を震わせ、【ヴァイスダーク】が
「ガッハッh――よく来たな勇者y――我こそは――今こそ決戦の――さあ、全力で――」
はい、バシバシ飛ばしてます。
全然メッセージ読んでません、いつも通りスキップしまくりです。
でも、ミズキ様は【ヴァイスダーク】を見上げて
防具は頭の【
文字通り
「行くぞぉ、アアア! 速攻でブッ
「は、はいっ! えっと、対策は――」
「うだうだ言うな、戦術は極めてシンプルだっ! お前が守る、アタシが
「わ、わかりまs――」
言うことは言って、こっちの言葉はキャンセルする。
でも、会話が成立してなくてもボクはなにも迷わない。
怖くないし、不安もない。
ミズキ様が思う通りに、ボクの全ての力を使うだけだ。
身構えるボクの横から、ミズキ様が大き過ぎる
「オラオラオラオラ、オラアアアアアアッ! コイツをっ、喰らいやがれえええええ!」
ミズキ様はその
鈍い衝撃音が響いて、【ヴァイスダーク】が
ダメージは通ってる、しかも大ダメージ! いける!
レベル上げをしてる余裕なんてなかったけど、レベルアップの時は常に攻撃力と瞬発力にガン振りしてきたミズキ様。見た目を裏切る腕力が、強力な打撃を可能にしていた。
だけど――
「
【ヴァイスダーク】の身体が、真っ白な鎧に覆われた。その名の通り
回避できずにミズキ様は火だるまになって、転がりながらボクの前に戻ってきた。
当たり前だけど、知ってたけど……一発でミズキ様のHP表示が真っ赤になる。
だけど、コゲコゲになりつつミズキ様は叫んだ。
「アアア! 交代だ、時間を稼げ!」
「は、はいっ!」
ボクはミズキ様に変わって前衛に
たちまち
だけど、ボクは【アーマードラゴン】……最終進化形態でも一、ニを争う頑強な身体を持っている。強固な
白き巨神となった【ヴァイスダーク】は、ボクを睨んでニヤリと口元を
その間にも、ボクが守るミズキ様は声を張り上げていた。
「モギュモギュ、ゴクン! よし、アアア! ガードに徹しろ! それで、フガフガ、ゴクゴク」
「それで……ミズキ様! なにか作戦を」
「死ぬな! 絶対に死ぬな!」
「はいっ!」
ミズキ様は回復アイテムを
ボクは防御に身を固めて、とにかく【ヴァイスダーク】の攻撃に耐えた。
凍てつく吹雪の冷凍攻撃を耐え切り、直接浴びせられる乱撃を耐え抜いた。
そうこうしている間に、ミズキ様はHPを回復させて飛び出す。
「よくやった、アアア! 邪魔だっ、下がってろ! そらぁ、もぉ一発っ、だああああ!」
再びミズキ様は、両手で武器を振り上げジャンプする。
【ヴァイスダーク】の顔面へと、古代の民が作りし
「おのれ、おのぉれええええ! 勇者め、この我に――」
「うっさい! 黙れ! ……だが、このメッセージが出たということは」
「そろそろ本気を出しt――更なる闇に白く染まr――死ね、勇者よ!」
「お前のHPはもう、半分を割っているっ! っ――グハアアアッ!」
ミズキ様はまた、派手にブッ飛ばされてボクの前に落ちてきた。
【ヴァイスダーク】はますます白く輝き、
確か【ヴァイスダーク】の正体は、世界と大自然のために人間の絶滅を決めた
今、
次の一秒で終わらせるために、今の一秒に全てを
ただ、それだけだ。
「くっそー、減るなあやっぱ。全裸、超痛い!」
「ありったけの全財産で、回復アイテム買っておいて、正解でしs――」
「当たり前だ! アタシの攻撃力から逆算すれば、何発で奴が沈むかわかる。一発当てて、全力で回復……このルーティンだ! わかったな!」
普通のプレイヤーならば、最終決戦前に武器や防具等を重視する。
まして、終盤に来て非売品の伝説級装備を売るなど考えもしない。
ミズキ様は違った。
武器以外を綺麗さっぱり売り払い、ありったけの回復アイテムをギリギリ限界まで持ち込んだのだ。
全裸のミズキ様と、フル装備のミズキ様。
被ダメージは大きく違う。
だが……一発では死なないという点においては一緒だ。
そして、ミズキ様の代わりにダメージを引き受けるボクがいる。
「
ボクはそれを受け止め、身を
でも、その時……
そして、次の一撃をボクに変わって受け止める。
受け止めきれずに吹き飛び、後ろ足で立つボクの胸に叩きつけられる。
「ゲファウ! ゲブ……減ったあ! すげえ減った! やべえな、アアア!」
「あ、ああ……ミズキ様! なんで」
「【ヴァイスダーク】は何度も攻略した、だから知っている……奴の思考ルーチンは、
「そ、そんな……でも、ミズキ様がそれを受けたら」
「竜しか即死せん! けど、ヤバイ、かなあ」
初めてミズキ様が弱気になった。
【ヴァイスダーク】が放つ、竜を無条件で即死させる一撃……
ミズキ様はまた、ハズレを引いてしまったのだ。
でも、知っている……アタリハズレに関係なく、腕と知力で現実を乗り越えてゆく。あらゆる結果を
「アアア! アタシのミスだ、最後の最後で……
「そんな……ミズキ様は悪くないです! なにも間違ってない!」
「……アアア。……ん? あれ、ちょっと待て」
ボクはミズキ様を守ろうと、前に出る。
だけど、ミズキ様は下がろうとしない。
「ん? これは……どういうことだ! アタシの武器が!」
「あっ、ミズキ様! ほら、あそこ! 【
「あークソッ! 操作ミスで装備が
よろよろと立ち上がったミズキ様が、不思議そうに首を
ミズキ様の計算が狂った今、ボクも限界を迎えつつあった、その時だった。
突然、背後で不気味な笑いが響く。
それは、狂喜にも似た高笑いで肩を震わせるミズキ様だった。
「フフ、ハ、ハハハ……アーッハッハッハ! なんだ? これはなんだ、そうか、ハハハ!」
「ミ、ミズキ様!?」
「なんか、そういうことってあるんだなあ? ええ? ……やってみっかよ!」
ミズキ様は突然、
そう、掴んだ。
それはゲーム処理的にありえないことだけど……ボクを装備した。
「え、えっ? ミズキ様? なにを!?」
「わからん! わからんが、見付けた以上は試すしかないな! もうそれしかない!」
「これは……あ、あれ? えっと――う、うわああああっ!」
「アアア! やっぱりお前がアタシの、最高のっ、武器だ! ――ねりゃああああああっ!」
ミズキ様は最後の力を振り絞って、ボクの尻尾を抱えて
だけど、ミズキ様は全力でボクを……高速回転からハンマー投げみたいに
「だらっしゃあああああ! 一発逆転の
「ミズキ様ーっ! え、えと、とりあえず……いってきまーすっ!」
ボクは全身の
ありえない高ダメージ……表示された数値がバグっていた。
そう、バグっていたんだ。
今までずっと判明していなかったバグがあって、それをミズキ様は見付けた。
瞬時にそれに賭けた。
ハズレを引き続けたのに、諦めずに直感を信じたんだ。
「ばっ、馬鹿な……我g――」
【ヴァイスダーク】の
次の瞬間にはもう、瀕死が嘘のようにミズキ様は走り出している。
「よっしゃ撃破! おい、アアア! さっさと来い! 教会でセーブするぞ! 最速で戻っても5分、それを
「あっ、待って下さいよぉ、ミズキ様! あの――」
「ははは、早く来い! グズグズするな! ははっ、やった……やったぞ! アタシの……いや、アタシたちの勝利だ!」
ミズキ様は【ヴァイスダーク】のドロップアイテムも無視して走る。
ボクはいつも通り、その背をがむしゃらに追いかける。
こうして、空前絶後の最速クリアタイムが更新された。
そして……ミズキ様が初めて見せる無邪気な笑顔が、ボクの見た最後になった。
・総プレイ時間〈08:48:14〉……Go Save a Excellent!!
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