第4話「そうだ、チートしよ――(キャンセルされました)」
あれから
ボクを見もしないで、前だけ向いて歩く。
何かをブツブツ呟きながら、悩むように
ボクは悲しくて、その背を追いながら進む。
ミズキ様はあのあともバリバリ攻略し、鮮やかにボスを倒してゆく。全く無駄のない動き、クリアへの最短ルート。でも、ボクは不安で押しつぶされそうだった。
「ミズキ様……あ、あのぉ。さっきのボス戦、ボクの動き……どうでしたか?」
聞かなくてもわかってるのに、つい言葉を
ミズキ様は無言で、最後の街【デスゲート・タウン】に到着した。
ここより先は魔界、そして魔王の城が待ち受ける。買い物もここが最後だ。
「えと、ミズキ様。ボクにもっと、こうして欲しいとか、こうなら
もはやメッセージのキャンセルすらしてもらえない。
そして、やっぱり確信してしまう。
ミズキ様は、ボクが【アースドラゴン】や【クリスタルドラゴン】、【グラビティドラゴン】になることを期待していたのだ。
でも、今のボクは【アーマードラゴン】……最終形態だけあって弱くはないけど、パーティプレイで
ミズキ様は最初にはっきりと、【アーマードラゴン】はハズレだって言った。
だからだろうか? あれからボス戦の
「ボク、もう
悲しくて視界が
あの大荷物よりも、ボクはお荷物なんだなって思った。
悲しい……そんな時、ボクは思い出した。
「あっ、あの! ミズキ様! そう言えばボク、思い出しました!」
急いでミズキ様の
最後の街だけあって周囲はプレイヤーたちで混雑していて、沢山の人と竜がボクたちを……とりわけ、半裸の美少女であるミズキ様を振り返った。
ミズキ様の防具は、ちょっとだけよくなっていた。
ふざけたきわどさとは裏腹に
ボクはミズキ様を横に見下ろしながら、一生懸命に考えを
「ミズキ様、ボクッ、ボク聞いたことがあります! 最終進化をやり直す方法!」
そう、ボクなりに色々聞いているし、情報も集めた。
ミズキ様は最短ルートであらゆるメッセージを飛ばして進むけど、ボクは周囲のプレイヤーたちのチャットログをチラチラ見てたんだ。
そして、多くの
みんな言ってた、本当は違うドラゴンがよかったって。
そんな人たちに出回っていた、ならやり直そうか? って話。
むしろ、今のドラゴンだって超パワーアップ……そう言ってた。
「えと、凄いアイテムがあるんです! ドラゴンの最終進化をやり直したり……あ、ほら、ボクみたいな【アーマードラゴン】でも、【クリスタルドラゴン】のドラゴンスキルが使えたり、あの【コスモドラゴン】より高いステータスになったりするんです!」
そうすればきっと、またミズキ様は機嫌を直してくれる。
ミズキ様の目指す最速攻略だって楽になる。
ボクはまた、ミズキ様と一緒に戦いたい。
オラオラァ! って
「ミズキ様、そのアイテムを探しましょう! それは、チートっていうアイテムなんです!」
……あれ? アイテム名だから【チート】じゃないのかな?
ログを
カッコで
首を
太陽と月を並べたような、
直後、ボクは
「痛っ! ミ、ミズキ様? ……やっぱり、ボクじゃ……ボクなんかじゃ駄目――!?」
メッセージをキャンセルされた。
ミズキ様は飛びつくように背伸びして、ボクの頭を胸の中に抱きしめる。
そして、全ドラゴン中最強の硬さを誇るボクの
「アタシは急いでいる! 一度しか言わんからよく聞けっ! ……返事!」
「は、はいぃ!」
「いいか、チートっていうのは……
「そ、そうだったんだ……え、あ、じゃあ、チートアイテムとか、チートできるアイテムってのは」
「このゲームのデータベースを書き換えるツールがある!
強く、強く強くミズキ様はボクを抱き締めた。
自分に言い聞かせるように、人目もはばからず叫んだ。
「ゲーマーは、自分の頭と腕しか頼らない! 紙とペンとか、ゲーム雑誌とかゲーマー仲間とか! そういうのがあれば充分だ! 無敵だ! チートで得られるのは力であって、強さじゃないっ!」
「ミズキ様……」
「チートなんかじゃな、アアア。世界は救われないんだよ。なにより、ゲーマーが救われない! そんなの、ゲームって言えるか? なあ、アアア!」
それだけ言って離れると、
そのまままた歩き出すので、ボクは
「考え事をずっとしてた。だから、アアア。お前を放置していた。だが、安心しろ! アタシはこのゲーム、『ドラグメイト・オンライン』で伝説を作る女!」
「は、はいっ! ……え?」
「今までの戦闘で、お前の【アーマードラゴン】としての全てを
「え、えええーっ!?」
ミズキ様はあれから、ずっと一人で考えてくれていたのだ。ボクに無意味な行動を取らせたのも、無意味に見えて違った……ボクのドラゴンとしての性質を
ミズキ様はあの
「確かにアアア、お前はハズレだ。アタシは他の三種のドラゴンに関しては、最初から使いこなす自信があった。だがな、アアア……真のゲーマーはいかなる状況においても、ベストを尽くす。ベストを探し、選択して、結果を出す。それが、強さだっ!」
「ミズキ様……ミズキ様ぁ! ふぎゅ!」
「黙れ! 時間がない、行くぞ! あーもぉ、
「ミズキ様ぁ、ボク、ボク……大好きです、信じていま――」
ボクの
でも、ミズキ様はちゃんとボクのことを考えてくれていた。ボクと今後もクリアを目指すことを
ミズキ様を信じること、それがボクの強さだ。
そう思った、その時だった。
道具屋に来たミズキ様は、今この瞬間のボクの決意をキャンセルした。
「よしっ、オヤジ! こいつを売るぞ、全部売る! 武器以外を全部買い取ってくれ!」
そう言ってミズキ様は、道具屋の前でなにもかもを脱ぎ出した。装備変更の処理エフェクトが
・総プレイ時間〈07:39:27〉……No Save a Go Go!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます