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 王都シャーリッドの東側にある、マノラ教会支部。

 マノラ教会に引き取られたフリードは、魔術師を目指すようになっていた。

 養父である神父は魔術師協会に入ったが、素質がなく魔術師にはなれなかった。

 だから、フリードが魔術師協会に入ることをあまり良く思っていなかった。

「神父様、魔術師になればリアトル様に近づくことができるんですよね?」

「フリード、あなたはまだ十五歳と若い。他にやりたいことができるかもしれない」

「いいえ、どうしても僕は魔術師になりたいのです。直接リアトル様をお守りしたいのです」

 フリードの決意は固かった。そんなフリードに神父は困ったような笑みを浮かべる。

「魔術師ではなくても、リアトル様は私たちの近くにいてくださいますよ」

「どこですか? どこにリアトル様がいらっしゃるんですか? 僕はリアトル様に会って話を聞いてほしいのです。そして、この世界を変えてほしいのです」

 愛の神リアトルがこの世を去ってもう数百年が経つ。今では、マノラ教信者ではない者も増え、リアトルという存在は神話で語り継がれるだけの神、という認識だ。いくらリアトルの力がすごくても、薄れてしまう力もあるだろう。だから、このディラード王国内でリアトルの愛が及ばない場所があるのだ。そうでなければ、フリードがこんな境遇になることもなかったはずだ。

「この世界も、リアトル様のつくった世界ですよ」

 フリードは、微笑み続ける神父に苛立ちを覚えた。

「いいえ、今の世界はリアトル様のつくりたかった世界ではないはずです。だから、僕が魔術師になってリアトル様の愛にあふれた世界をお守りするのです」

 真剣に語るフリードを神父は鼻で笑った。今まで優しくマノラ教を教え、フリードを導いてくれていた神父の裏の顔を垣間見た気がした。

「どうせ魔術師にはなれませんよ。この私でも無理だったのですからね」

 神父は、魔術師になれなかった屈辱、劣等感の塊を内に隠していた。だからこそ、自分が確実に上に立てる教会の神父になったのだ。マノラ教信者に祈りを捧げられ、頭を下げられ、感謝される。それに、孤児を拾って育てているとなれば街の住人からの好感度もあがる。そうすれば、王立騎士団や魔術騎士団の信用も得られるし、教会への国からの助成金も多く出る。

「もしや、神父様はリアトル様の愛よりも地位やお金をお望みなのですか?」

「馬鹿なことを言うものではありませんよ。私はリアトル様の愛を信じています、誰よりもね」

 そう言って笑った神父の瞳の奥には黒い光があった。その瞬間、フリードは気付いてしまった。肉親でさえ身内を裏切るのに、赤の他人が誰かを愛することなどできはしない。

 人間を信用してはいけない、とフリードは改めて心に刻む。

 リアトルの愛は、醜い人間たちに穢されてしまった。だからこそ、隣国のリモーネでは戦争が起き、魔術師に守られているはずのディラード王国でも貧富の差が生まれている。

 この世界をやり直さなければならない。そのためには、リアトルの愛が必要だ。


 そして数日後、フリードは一人で魔術師協会の門をくぐったのだ。

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