第24話 失望

 車に乗り込み、パーティー会場へ向かった。

 だいぶ予定が狂ったようだ。

 真壁はチッと時折舌打ちをしながら、イライラしている風だった。


「えらく時間がかかったね。もうギリギリだよ。上司もきてるし、今日は有名人もくるらしい。遅刻はしたくないから急がないとね。だってさ、遅刻するとだらしないって思われるだろ? どけよ、あの車。あぁもう時間がねぇのに」


 ユキは真壁という男の本質がうっすらとうっすらと見えた気がした。

 結局、パーティー会場には開始より十五分早くついた。


 車を止めて降りるなり、真壁はユキの手を握った。

 ユキは振りほどこうと思ったが、強い力で握られている。

 だんだんと人が増えてくるためあまり大きく手を振りほどくのも、声を荒げるのも躊躇してしまった。

 そして会場に入った。

 すると大勢の人が真壁を囲んだ。

 ユキは観念した。

 真壁はようやく機嫌がなおったようで、鼻高々に色々な人にユキを紹介した。


「やるなぁ、真壁くん。あんな美人と付き合ってるなんてな」


「おい、真壁、すげぇ美人じゃねぇか。紹介しろよ」


 真壁は終始笑顔で応じ、ユキを自分の恋人のように紹介し、振る舞った。

 そうしながらも周囲の反応を鋭く見ていて、悦にいっている様子が伺えた。

 色々な男がユキの美貌に驚く。

 女達がユキの美しさに嫉妬している。

 真壁は、どうだ、これが俺の彼女だ、という気持ちを隠しきれないでいた。


 ユキはパーティーに来た事を後悔した。

 真壁に誤解を与えたのかもしれない。

 それにちゃんと告白されれば付き合うつもりでもいた。

 しかし、まだ正式に告白されてもいない。

 まだ付き合っているつもりもないので、恋人のように紹介されたり、彼氏のように振る舞われたりするのには憤りを覚えた。

 そしてそれ以上に見世物扱いされている事が息苦しかった。


「真壁さん、私、そろそろ帰ろうかな。おばあちゃんが心配だし……」


「平気さ。あの鉄って男もついてるんだろ? 何かあれば連絡くれるさ」


「そうだけど……」


 真壁はもう病気のおばあちゃんの事などどうでもいいのだろう。

 ユキの気持ちを察するわけでもなく、自分のために強引にここに引き止めて置くつもりなのだ。

 ユキは失望しつつあった。

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