第22話 思惑

 土曜の朝、真壁は気が逸るのを抑えられなかった。

 今日は会社が主催するパーティだ。

 真壁の上司も出席する。

 同僚も、後輩も皆、パートナーや家族同伴で参加するパーティである。

 パートナー不在時は友達でもいい。

 芸能人も多数来る。

 真壁はそこで上司や同僚にユキの存在を見せつけたかった。

 そのためにユキに是が非でも来てほしかったのだ。

 意外にもユキの返事はOKだった。

 真壁はユキとの交際を確信していた。


 真壁は十一時にユキを迎えに行き、そのまま公園を散歩しながら愛の告白をする予定だった。

 間違いなくOKを貰える。そんな自信があった。

 そしてその返事を持ってパーティーに参加する予定だった。

 我ながら良いプランだと、悦に入っていた。

 今日こそユキを自分のモノにできると信じて疑わなかった。


 一方ユキは迷っていた。

 いや、厳密にはその迷いから眼を背けようとしていた。

 真壁は悪い人ではない。

 気持ちも誠実さも伝わる。

 自分を大事にしてくれる。

 とても良い人だわ。

 ただ、何かが……。

 いえ、大丈夫。大丈夫よ、ユキ。

 ユキは自分に言い聞かせた。


 そしてその直後、すぐ鉄のことを考える事が増えてしまっていた。

 鉄はユキの女心をくすぐるようなことは一度もしてくれなかった。

 もしかしたら女性に興味がないのかな、とも思ってしまう。

 その点、真壁は男らしいほどにユキへの気持ちはまっすぐだった。

 でも……。

 あの鉄と一緒にいるときの安心感は……。

 どこから来るんだろう……。

 

 ユキがボーッとそんな事を考えていると、台所からガラガラガラと何かが倒れる音が響いた。

 ユキは慌てた。

 おばあちゃんに何かあったのかもしれない。

 慌てて様子を見に行った。


「どうしたの! おばあちゃん大丈夫?」


 おばあちゃんは台所の床に倒れていた。


「おばあちゃん! どうしたの、おばあちゃん!」


 慌てておばあちゃんに駆け寄り、おばあちゃんを抱きしめた。

 すると体中からものすごい熱を感じた。


「大変、病院に行かなきゃ!」


ピンポーン


 丁度、タイミングよく真壁がユキを迎えにきたのだった。

 ユキは救われたと思った。

 真壁の車で病院まで送ってもらえたら……。

 そう思って玄関へ急いだ。


「真壁さん!」


 ドアを開け、真壁を見るなり大声で言った。


「真壁さん、大変なの! おばあちゃんが、熱があって、病気みたいなの!」


 真壁の顔が一瞬曇った。


「それは……、大変だね」


 鈍い反応だった。 

 熱ぐらい寝てればなおるだろ? と言わんばかりの表情が読み取れた。


「ユキさん、今日はとても綺麗だよ。もう準備はいいのかい?」


 と急に笑顔になって言った。


 ユキはカッとした。

 それどころじゃないのが何故理解できないのか。

 しかし、それよりもおばあちゃんを病院に送ることが先決だと思いグッと抑えて言った。


「真壁さん、ごめんなさい。おばあちゃんを病院まで送ってあげてくれない?」


 なるべく感情を抑え、懇願するように言った。

 しかし、真壁は表情を曇らせ、渋った。

 うーん、でも、予定が狂うと困るなぁ、と躊躇した。

 その時である。

 自転車がアパートの前で急停車し、ツナギ姿の鉄が大慌てでやってきた。


「鉄さん!」


 ユキは思わず、歓喜の声を上げた。

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