第21話 電話
それから数週間が過ぎた。
おばあちゃんは思い切って鉄に電話してみることにした。
トゥルルルルル・・・。
トゥルルルルル・・・。
「はい! ばあちゃんかい?」
鉄の元気そうな声が受話器の向こうから溢れ出た。
「鉄さん、元気? 鉄さん!」
「元気も元気よぉ! ばあちゃん! 電話ありがとよ! チェッ、チェッってなもんだからさ、俺っち、何度も電話したかったんだけどさぁ、自分から言い出しただろ? 恥ずかしくってさ……ヘヘ。ばあちゃんは変わらないかい? 元気かい?」
「うん、元気よ……。鉄さん、元気そうで嬉しいわ」
「なぁ~に、俺っち、名前の通り鉄みたいな体だからよ、元気だけが取り得よ! へへへ……」
「まぁ、ゴホッ、ゴホッ……。おかしな鉄さん……。ゴホッ」
「おいおい、どうしたんだよ、ばあちゃん。勘弁してくれよ、心配しちまうじゃねぇか! 平気かい?」
「いえ、何ね、三日ほど前から風邪をこじらせてしまってねぇ……。ゴホッ」
「そいつはいけねぇ。ばあちゃん、年齢をちったぁ考えてくれよ! 本当に大丈夫かい? あぁ、そうかい。じゃあ何かあったらすぐ電話してくれよ。すぐ駆けつけるからよ。今日はありがとな! ばあちゃんの声聞けて嬉しかったよ! へへへ。そんじゃあな、お大事に!」
鉄は電話を切った。
鉄はやっぱり嬉しかった。
おばあさんやユキと会えなくなったのは寂しかったし、今まで以上にひとりぼっちでいることが堪えた。
それだけにおばあさんからの電話は、携帯に飛びつきたくなるほど嬉しかった。
「風邪、平気だといいけどな……」
鉄はおばあさんの風邪が早くなおるといいな、と思った。
同じ日の夜、真壁とユキは夜景が一望できる高級レストランで食事をしていた。
ユキはまばゆい夜景を見ながらも、心のどこかで本当はこんな高級感溢れる夜景より、池のほとりで見る星空の方が好きなんだなぁというのを自覚していた。
ねぇ、ユキさん、聞いてる?
という真壁の問いにユキはハッと我に返った。
「え? ごめんなさい、何か言いました?」
「どうしたんだい? さっきからうわの空だよ。あのね、土曜日にウチの会社が主催するパーティがあって、それに一緒に参加してほしいんだよ。何でも芸能人なんかも参加するらしくてさぁ。知ってるでしょ、あの女優の……」
ユキは真壁の話から気持ちが逸れていくのをどうしようもなかった。
そうだ……。
おばあちゃん、こうしている間にも一人ぼっちなんだ……。
もう帰らなきゃ。
「ね? 行こうよ。楽しいと思うんだけどなぁ。どうだい?」
「え? あ、うん。わかったわ。土曜日ね」
「本当かい? いやぁ~嬉しいなぁ! ユキさん、きっと楽しいと思うんだ。パーティー自体は十四時からだからそれまでドライブをしようよ!」
「えぇ。あの、真壁さん。私、今日は帰っていい?」
「え? ちょっと早くないかい。まぁでも、土曜日もあるしね。うん。送るよ!」
真壁はユキを家まで送った。
ユキは家に帰るとおばあちゃんにただいま、と言ったが返事がなかった。
もう寝ていたのだ。
時間は二十二時を少し過ぎていた。
最近は、おばあちゃんとの会話もロクにない。
ユキは何か大切なものを失っていっている気がして怖かった。
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