第20話 葛藤

 ユキが鉄の決意を知ったのは数日後のことだった。


 久々に早めに帰るとおばあちゃんが寂しそうに居間でポツリと座っていた。

 明らかに元気がないので、事情を聞いてみると鉄があの日以来、一度も顔を見せないというのだ。

 しかもその理由がユキと真壁を気遣った、ということだった。


 ユキはムッとした。

 

 私が原因だったの?

 私が真壁さんと食事に出かけたことを原因にするなんて、あんまりよ!

 本当はもう来たくはなかったんじゃないの?

 その口実に私を選んだだけじゃないの?


 と内心憤慨した。


 おばあちゃんはそれを察したかのようにポツリと、鉄さんはユキのことが大好きだったからねぇ、と言った。


 私のことが好き?

 ユキは我が耳を疑った。

 

「おばあちゃん、それ本当?」


「気づかなかったのかい?」


 ユキは黙った。


「本当よ。それにね、見ていればわかるわよ。鉄さんを見ていればね。ユキを見る眼があんなにやさしかったじゃない。真壁さんが来てから……。鉄さんは辛かっただろうねぇ……」


 おばあちゃんの頬に涙が流れた。


「鉄さんは身を切る思いで、私達と別れたに違いないんだよ。真壁さんとユキのためにね。たったひとりで寂しく育った鉄さんは……。私やユキを家族のように想ってくれてたんじゃないのかねぇ……。だからこそ、自分がいては邪魔だと思って身を引いたんだと思うよ。可哀相なことをしてしまったねぇ……。ユキ、鉄さんを・・・悪く思わないでおくれ」


 ユキは動揺していた。

 私だって鉄さんが好きだった。

 でも気持ちを、ちゃんと伝えてくれないから……。

 だから……。

 だから、真壁さんの誘いに応じていたの?

 だから真壁さんと一緒にいるなら、真壁さんに対しても失礼だわ。

 だけど……。

 鉄さんの眼の前で何度も真壁さんと一緒だった。

 ちゃんと二人と向き合ってなかったのは私の方かもしれない……。


 ユキは後悔が襲ってくるのをどうしようもなかった。


 部屋で音楽を流した。

 なぜだか、鉄と一緒にカエルの声を聞いていた事を思い出した。

 グゥ、グゥ鳴るウシガエルを探したり、星空を飽きもせず眺めたり。

 楽しかったなぁ……。

 心が休まる時間だった。

 鉄さん……。

 ごめんなさい……。

 鉄さん……。

 鉄さんの気持ちを察することもできずに……。


 ユキは部屋で声を殺して泣いた。

 そして鉄のためにも、真壁とちゃんと向き合って前進していこうと決意した。

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