第19話 笑顔で
玄関を出るとユキとバッタリ会った。
「あら、鉄さん!」
ユキの声は明るく、生き生きとしていて、それだけに鉄は苦しかった。
それでも鉄は、やぁと無理やり笑いながら会釈をした。
「もう帰るの?」
「うん」
「まだ早いじゃない。おばあちゃんも寂しがっているわよ」
「次はゆっくりしていくよ。今日はちょっと用事があってよ。それに今週の土曜は出勤しなきゃならないから、あんまり無理はできねぇんだよ」
「あら、残念ね。わかったわ。引き止めてごめんなさい。じゃあまた」
「うん。また」
ユキはサッと立ち去ろうとしていた。
鉄はふと言った。
「ユキさん。あのな、その、ユキさん。あの……」
「えっ?」
鉄はユキに伝えたかった。
気持ちだけでも伝えようと思った。
そう思って口を開いた瞬間、ビッビーとクラクションが鳴り、車から男性が声をかけた。
真壁だった。
「おーい、ユキさん、急がないと遅くなるぞ!」
「ごめんなさい! 今行きます! 鉄さん、何?」
「いや、いいんだ。これからどこかにいくのかい?」
「ええ、今日どうしてもって聞かないの。もう遅いからって断ってるんだけど。でも晩御飯だけっていうから……」
「そうか、じゃあ俺っちはこれで……」
「鉄さん!」
ユキは鉄を呼び止めた。
「何か……、私に言いたいことがあったんじゃない?」
「うん、いいんだ。どうしょうもねぇことだから。それよりも楽しんできなよ。じゃあ俺っちはこれで」
鉄はなんともいえない笑顔でユキに手を振っていた。
そして足早に立ち去っていった。
ユキはなぜか鉄が気になった。
鉄の後ろ姿にもう一度声をかけようとしたとき、またクラクションが鳴った。
ユキは名残り惜しそうに鉄の後ろ姿を追いかけながら車にのった。
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