第16話 良い人
真壁は一週間に三日は必ずユキを送った。
自宅に花が届いたりもした。
ネックレスや時計も贈るようだ。
今度クラッシックコンサートに誘われているらしい。
おばあちゃんは一度家に連れてくるように強く言った。
ユキはそんなんじゃない、といいつつも顔を赤らめた。
ある日鉄とおばあちゃんが二人っきりの時におばあちゃんは言った。
「今日もユキ、遅いねぇ……」
「…………」
「鉄さん、ユキのこと、嫌いかい?」
「嫌いなわけねぇよ」
「鉄さんはユキのことどう考えているんだい?」
「そうさな、俺っち、チェッ、チェッ、チェッってなもんさ。つまりその……。あんな紳士と出会えて良かったなって思うよ……」
「鉄さんは立派だね。立派だけどユキはあの男に取られてしまうね。女はね、気持ちを伝えてくれる人が一番いいんだよ?」
「…………」
「私はね、鉄さん。鉄さんとユキが一緒になってくれると嬉しいんだけどねぇ……」
鉄はしばらくだまってうなずいていた。
「ばあちゃんさ」
鉄は小さく答えた。
「人間ってのはさ、引き際も大事だっておもうんだよ。俺っち、自信がねぇ。自信がねぇなら諦めるしか仕方がねぇ。その、なんだ、俺っちみたいなもんはまだまだ修行中みてぇなモンだ。半人前だしな。それにあの真壁って紳士は良い人だぜ。あんなにユキさんを想ってくれてるじゃねぇか。きっとユキさんとお似合いだよ。ばぁちゃん」
おばあちゃんはお茶を啜った。
「鉄さんは、『良い人』だねぇ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます