第15話 変化
ユキは鉄が手も握ってくれないし、あまり気持ちを表現してくれないのでヤキモキしていた。
そんな時にユキへ猛烈にアプローチしてくる男が現れたのだ。
しかも、その男性がユキを送っている現場を、鉄は偶然にも見てしまった。
その男は高級な車から降りると、サッと助手席側のドアを開けまるで映画のようにユキの手を取った。
ユキもその男を見上げ笑顔を浮かべている。
男は身長も高く、スーツが良く似合う紳士だった。
キザな行動が嫌味にならないほど洗練されていて、ユキと二人でいると本当に映画スターが並んでいるようで眩しかった。
鉄はなんだか夢から覚めた気がした。
自転車でおばあちゃんの家まで向かう鉄と高級な車で送る紳士。
ユキにはその男性がお似合いだなぁと鉄はつくづく思った。
気づかないフリをしてユキ達の場所から離れた道を通り、先回りしておばあちゃんの家へ行こうと思った。すると後ろからユキが声をかけてきた。
「鉄さぁーーん!」
鉄は哀しいけれど、少し救われた気がした。
そしてできるだけ明るく振舞おうと思った。
しかし、ついついその紳士のことを口にしてしまった。
「ずいぶんと立派な紳士だねぇ」
「あぁ、見てたの? 友達のエリ、話たでしょ? その子の友達なんだ。真壁さんっていうの。いつも私の会社の前で待ってるのよ、最初は断っていたんだけど、エリの手前、悪いし、送ってくれるだけならって……。ダメ?」
ユキは自然と鉄に許可を求めた。
鉄は動揺した。
ダメだと言いたかったが、つい逆のことを言った。
「そりゃあ、良いんじゃねぇかな。俺っちはあんな車のったこともねぇし……。立派な車だなぁ~」
「あら、私、車は嫌いよ。なんだか息苦しいじゃない? 真壁さんね、明日も送るって聞かないの。いいです、結構です、って断ってるんだけど……」
「そうかぁ」
鉄はなんとなくだが、ユキも迷惑とは思いつつ、悪い気はしていないんだろうな、と思った。
でもそれでいい、とも思った。
若い女性はそれでいい。
大事にされて輝くべきだよ、と思った。
あとはその真壁が本当に紳士的な人ならいいな、と願うばかりだった。
そして鉄は身を引こう、とも思った。
争ったって勝てる相手じゃねぇしな。
俺っちみたいな奴が夢見ちゃいけねぇ。
ユキさんを幸福にしてやれんのは、あぁいう紳士だけだろうぜ。
鉄は寂しさに慣れているつもりだったが、予想外に落ち込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます