第13話 三人

 それから数週間たった。

 鉄への疑いもすっかり晴れた。


 むしろユキは鉄の人柄を知るにつれ、なんとも言えない暖かさを感じていた。

 少し自己否定が強すぎて、もう少し自信をもってほしいとは思うが、なんとも言えない優しさをもっていることに強く惹かれた。


 ただ、鉄は未だにユキの目を見て話せなかった。

 ユキはそれが残念だと感じるまでになっていた。


 ある日の夜だった。

 三人で食卓を囲んでいる時の事だった。


「お、オレっちみたいなもんが、いいのかな、もうユキさんもいるし、オレっち、申し訳なくってよ……」


「あら、いいのよ、鉄さん。どうせ家に帰っても一人なんでしょう? だったら三人で食べたほうが美味しいじゃない、ねぇおばあちゃん」


「そうそう」


「チェッ、チェッ、ユキさんはいい気なもんだぜ。俺っち思うんだがよ、ユキさんの料理がうめぇのはやっぱりばあちゃん譲りだな。ばあちゃんの方がまだまだうめえけどな。でも、オレっち思うんだがよ、やっぱりユキさんの料理もうめぇよ」


「あら鉄さん、お上手言ってるわ、ねぇユキ」


「ホント、鉄さんがお世辞言えるなんて。あんなにカッチンカッチンだったのにね」


「冗談じゃねぇやな」


 三人の大きな笑いがおこった。

 にぎやかな食卓だった。

 ふと、おばあちゃんが言った。


「鉄さん、明日休みだろう? ユキを連れてどっかいっておいで」


 鉄はガフッ、っと妙な音をたてた。食べ物が喉につまりつつ、鉄は固くなった。

 おばあちゃんはそんな鉄を面白そうに見ていた反面、ユキの頬が赤らんでいくのを見逃さなかった。


「じ、じ、じ、じょ、じょ、冗談いっちゃいけねぇ!」


 鉄は予想以上に大きな声で言った。


「お、お、俺っちみたいなおじさん相手にするようなユキさんじゃねぇやな!」


 鉄はそういってちょっと慌ててお茶を飲んだ。

 そしてチェッ、チェッ、チェッといい続けた。


「ユキはどうだい?」


「私は……」


 鉄のチェッが止まった。


「……久しぶりに映画館で映画が見たいな……」


 鉄は口からお茶を出した。


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