第11話 誤解
その頃、おばあちゃんは泣き崩れていた。
ユキは困惑していた。
事実、自分達にも非があった。
家族が見捨てたおばあちゃんをあの男が助けたのは事実なのだ。
それを家族面して途中からあの男に詰め寄った自分は本当に正しかったのか。
正しかった、と信じたい。
正しいに決まっている。
二人で生活をはじめればおばあちゃんも元気を取り戻してくれる。
ユキはそう自分に言い聞かせた。
「おばあちゃん。もう泣かないで? これから二人で一緒に生活していこ? 私があの鉄って人の分も頑張るから。どんなに信用できる人でも……。結局は他人じゃない。ね?」
おばあちゃんはまるで生気が抜けたように佇んでいた。
「そうだねぇ……」
その様子を見て、今はその話をしてもダメだと思った。
ユキは料理の支度に取り掛かる事にした。
じゃがいもの皮を剥いていると、鉄が言った『死ぬ直前だった』という言葉が頭をよぎった。
どうしてだろう?
年金もあるし、貯金もあったはずだ。
それがどうして?
孤独に耐えられなくなったのかな?
一人ぼっちがそんなに辛かったんだろうか。
「おばあちゃん、電気代もガス代も払わなかったの?」
「払えなかったんだよ……」
ユキの手が止まった。
払えなかった?
どうして?
母が出て行った事がそこまでショックだったのだろうか……。
「ユキのお母さんを恨むわけじゃないけど……。借金残して出て行ってね。私の貯金も取られて……。残ったお金は全部借金の支払い。・気づいたらお金がなかったのよ……。きっとあの人にはあの人の事情があったんだろうし、私もあのまま死んでも良いって思ってたから……。恨んではいないよ……」
ユキはおばあちゃんに駆け寄った。
「ちょっと、ちょっと待って。事情が違うわよ。え? お母さんが借金してたの? じゃあ電気代やガス代は誰が払ったっていうの? 私が電話した時、繋がらないからおかしいとは思ったけど……」
「借金の件はもういいよ。私は鉄さんが泥棒に来てくれて、今まで食べたこともないくらい美味しいすりおろしりんごを食べさせてくれた……。おじいさんが私のために導いてくれた泥棒だと信じてる。あの日、ガス代も電気代も全部鉄さんが払ってくれて……」
「じゃあ! 命の恩人じゃないの!」
ユキは詳しく聞けば聞くほど、自分がした鉄への仕打ちが恥ずかしくなった。
鉄は泥棒に入って、おばあちゃんが危ないと知ると慌てて買い物をしてきた。
すりりんごを食べさせてくれて、電気代、水道代、ガス代を払い、ライフラインを元に戻した。
翌日からもおばあちゃんを見舞い、元気になるまで支えてくれた。
人を騙す人間のやることじゃない。
それどころか、鉄がいなければ……。
おばあちゃんと無事に会えたかどうかもわからないのだ……。
ユキは激しく後悔した。
幸いにも住所がある。
ユキは決心した。
「私、謝ってくる!」
おばあちゃんはさすがユキ、と思わず言いそうになった。
この子の行動力は衰えていないと思った。
思い立ったらすぐ行動するところはおじいちゃんそっくり。
おばあちゃんはユキのそういうところが好きだった。
「ちょっとお待ち。料理でもつくって持っていっておあげ」
それもそうだと思い、ユキはサッと台所に立ち料理に取り掛かった。
「鉄さんは肉じゃがに目がないよ」
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