第156話 年末(1)

「高宮さん・・?」


理沙は驚いた。



「あ・・ごめん。 なんか急に休んだりして。」


何とも情けない理由で仕事を休んでしまったことをどうしても詫びたくて理沙に電話をした。


「いいえ。 支社長代理から高宮さんが東京に戻って骨折してしまったとお話はうかがいましたけど、」


「ウン・・ま、ほんと情けないんだけど。 結局、仕事納めのあいさつ回りも行かれなくて、」


「それは大丈夫です。 私でも、何とか。」


理沙は彼が東京に戻った理由はわかっていたので、それ以上は何も言えなかった。


自分が彼女にウソをついてしまったことで、誤解した彼女が東京へ戻ってしまい、それを慌てて追いかけて行ったのだろう。


「すみませんでした。 本当に。」


自責の念で押しつぶされそうだった。


「水谷さんのせいじゃないよ。」


優しく彼女を庇った。


「それで。彼女とは、」


聞くのは怖かったけれど。


責任は感じる。


「ウン。 やっぱり最初の約束どおり4月には戻るよって約束をした。」



心が


くしゃっと


音を立てた。



「それまでは、一生懸命そっちで頑張るから。 いや、それまでとかそういうんじゃなくて。 必ず、3月いっぱいまでにはきみが支社長秘書としてもう一度立て直せるように。 おれにできることは何でもするから、」


彼の力強い言葉は


きっと彼女とうまくいったのであろうという確信でもあり。


「4日の仕事初めには、何とか出社する。」


「ハイ。」


理沙は少し震える声でそう言った。




「りゅうのすけ~! あそぼ~!」


翌日も


地獄は続く。


朝っぱらから二匹の怪獣が走ってやってくる。


南と真太郎はもう出かけてしまっていなかった。


「また、おまえらか。」


用意してもらった朝食を食べながらため息をついた。


「ね~、庭でヒコーキやろ。 ヒコーキ。」


竜生が高宮の腕を引っ張る。


「コレを見ろ! おれは骨折してギブスして、杖までついてるの! 外でなんか遊べるか!」


子供相手と思いながらも、この状況がわからんのか、とつっこみたくなった。


「立てんだろ?」


またも生意気な口をきいてくる竜生に、


「おまえは日本語をもうちょっと勉強したほうがよさそうだな…」


耳をぐいっと引っ張った。


「いてっ! そんなことするとグランパにいいつけるぞ!」



ちゃんとそういうツボは知っている。


く・・


嫌なガキ…。



しかしそこでハッとした。


「なあ社長は今いるの?」


竜生に聞くと、


「え? しゃちょう?」


「グランパのこと。」


「いるよ。 さっき下にいったらいたもん。」



よく考えたら


いくら三世帯住居とはいえ、社長にあいさつもなくここに居候をしている。



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