第157話 年末(2)

「す、すみません、挨拶もなく、専務のところにごやっかいになることに、」


北都社長はもう休暇に入っていて、普通にリビングでくつろいでいた。


「真太郎から聞いている。 大変だったな。」


「いえ、ぼくの不注意で。」


「ねーねー! もう、あそぼうよう・・」


ついてきた竜生と真鈴が松葉杖で立つ高宮の腕を引っ張る。


「今、おはなししてるから。 いい子だから向こう行ってなさい・・」


必死に堪えて作り笑顔でシッシッと追い払うように言った。



「もう、竜生も真鈴も無理を言っちゃだめよ。 おじさん、怪我をしているんだから。」


北都の妻・ゆかりは笑った。


おじさん、じゃないッスよ…。


高宮はガクっときた。


彼女は元々北都エンターテイメント所属の大女優だったが、社長である北都と結婚したと同時に芸能界から引退。 今は子供たちや孫たちと悠々自適に過ごしている。



「芦田から連絡があった。 おまえが4月には東京に戻るつもりだということを。」


北都はタバコに火をつけた。


「あ・・はい。 大阪も大変ですが。 今、支社長秘書をしている子になんとか一人前になってもらって、と。」


「まあ、おれはおまえには戻ってきてもらいたかったから。 判断は芦田に任せていたけど、少しホッとしている。」


ふっと笑顔を向けられて、高宮は安堵した。


「大阪はおまえが行ったおかげで混乱からようやく抜け出せそうだと、評判も聞いているし。 本当によくやってくれたな。」



そんなに褒められるなんて。



人から褒められてこんなに嬉しかったことなんていつ以来だろう。


「ありがとうございます。でも、まだやることは山積みです。 こんな状況になってしまいましたけど、年明けからはまた大阪で頑張りますから。」


晴れやかな笑顔でそう言った。




「え? じゃあ、正月は実家に帰らないの?」


「はあ。お母さん、茨城にいるおばさん、お母さんの妹なんですけど。 と、一緒に温泉に行くことになっちゃって。 だから今回はこっちで過ごそうかなって、」



夜、夏希から電話が来た。


「そっかあ。」



沈黙の後、


「いってぇ!!」


高宮の絶叫が聞こえた。


「は?」


そして、


「だから! ギブスの上に乗るなつってんだろっ!!」


さらに絶叫は続く。


「ど、どーしたんですか?」


「もう、なんっか知らないけど。この二人入りびたりで、」


足元でじゃれる竜生と真鈴を恨めしそうに見た。


「竜生くんと真鈴ちゃんですか?」


「勝手に人の部屋に入ってくるしさあ。 真鈴は・・まあ、かわいいけど、竜生はナマイキだし、」


とぼやくと、


「おれのこといじめるとグランパにいいつけるぞ!」


横から竜生の声が聞こえる。


「すぐこうやって大人を脅すし。」


夏希はおかしくなって笑ってしまった。


「まあ、ナマイキですけど。 二人ともすっごいかわいいんです。 あたしもよく絵梨沙さんのところにお邪魔をしたんで。 一緒に遊んだり。」


「で、池に落ちたりしたの?」


と笑うと、


「えっ! なんで知ってるんですか??」


「大人が池に落ちるかなあ…」


その状況を想像してまた笑いがこみ上げる。



「そ、想像しないで下さい!! あれは事故ですからっ!」


必死に否定する夏希が微笑ましく。


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