第155話 急展開(4)

「え、南さんのところに?」


夏希はその事実を聞いて驚く。


「こっちにもう家ないやんかあ? 正月は長野に行くって言ってたから、それまでいればって。 ウチならお手伝いさんもいるから不自由しないしね。」


「そう、ですか。」


夏希は少しホッとした。


わざとじゃないとはいえ、彼が怪我をしたのは自分のせいだと思って責任を感じていた。



「あ、今日来る?」


「へ?」


「ちょっと二人っきりにはなれないかもしれへんけど~。」


南にニヤつかれて、


「や・・別に・・」


夏希は照れて背を向けた。


「で、結局うまくいったの? なんかようわからへんねんけど。」


しつこく彼女の顔を覗き込む。


「うまくいったってゆーか。」


夏希は照れて大きな体をくねらせてモジモジした。


「マジ、つきあうことになったの?」


と言われて、



「え・・」


夏希はふと考えた。



つきあう?


つきあうことになったのかな?



「よくわかんないですけど・・」


「え、わかんないの~? だって大阪でも高宮の部屋でずうっと過ごしてたんやろ?」


「熱が40℃もあったんですよ。」


「しかも、今度は逆に高宮が追っかけてきたんやろ? どーもなってないの?」


「どうもなってなくもない・・ような、あるような。」


「なんや、ソレ、」


「4月になったら、戻ってくるって、約束してくれましたから、」


夏希は頬を赤らめて嬉しそうにそう言った。



その笑顔だけで


二人の間が縮まったことがわかった。


「そっか。」


南は優しく微笑んだ。



南も芦田がこのまま大阪支社長に就任することは知っていた。


高宮がどうするのか、ということは気になっていて。



だけど


たぶん・・


あのスカした男は


仕事よりもこの子を選んだ。



なんか


すっごーい。



そんなに熱い気持ちを彼が持っていた、ということがなんだか嬉しかった。


「ウン、よかったね。」


南は夏希の背中をポンと叩いた。


「はい、」


なんだかちょっとだけ彼女が大人になったような気がしていた。




そのころ


高宮は。


「お! おれのかち~~!」


竜生がゲーム機を持ち出してきて、高宮に相手をせがんでいた。


「おじさん、おとななのによわいね、」


コイツ、ひとこと多いんだよ!




「おじさんじゃねーよ。れはまだ27だ!」


ささやかな抵抗をした。


すると真鈴がトコトコとやってきて、


「ほん~~。」


高宮の服を引っ張って本を持ってくる。


「はあ?本~?」


「よんでやらねーと、なくぞ。」


またそう脅されて、


「じゃあ、おまえが読んでやれ!」


子供相手ということを忘れてそう言い放った。



「おれ、字、よめないも~~ん。 しかも、にほんごよくわかんないし~。」


「はあ?」


「おれ、うまれてからほとんどウイーンにいたんだもん。」


「ウイーン?」


「まりんがおおきくなったから、パパとママはふたりでウイーンにいくようになったんだ。」


こんな小さいのに


両親と1年のほとんどを離れて過ごしている。



ま、かわいそーっちゃ、かわいそうだけど。




「そのとき、メロンパンは・・」


仕方なく真鈴を膝の上に乗せて本を読んでやっていると、


「メロンパンじゃなくて、メロンパンナだろ? ちゃんとよめ!」


また竜生のつっこみが入り、


「うるせえ! その辺は自己処理しろ!」


高宮は思わず大人相手のように竜生に文句を言った。




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