第153話 急展開(2)

「おはようございます!」


夏希は元気に何事もなかったかのように出社した。


「お、男を大阪までおっかけていった女。」


八神がからかうと、


「お・・おっかけていったって・・」


どぎまぎして言葉に詰まる。


すると、デスクワークをしていた斯波が、


「おまえ、このクソ忙しい時に4日も会社、休んだんだぞ。 ちっとは申し訳なさそうにしろ!」


と文句を言った。



確かに・・


夏希はしゅんとなって、


「ご迷惑をおかけして。 すみませんでした…」


神妙に謝った。


「で、高宮はどこにいるの?」


南が言うと、


「斯波さんのところに・・」


「実家、帰らないの?」


「高宮さん、あんまりご両親とうまくいってないみたいで・・」


夏希はうつむきかげんに言う。


「そっか・・」


南は何かを考えているようだった。




「なんすか、いきなり・・」


高宮が寝込んでいる斯波の部屋に南はキーを借りて乗り込んだ。


「はい、んじゃあ。したくして。 ていうか、そんな荷物もないか。」


周囲を見回した。


「どこ・・行くんですか。」


呆然とする彼に、


「え? あたしンとこ。」


南はにっこり笑った。


「はっ????」


いきなりの展開に驚く。


「だってさあ。 ま、いちおうこの家も部屋数あって広いけど。 あんなラブラブカップルのトコに居候しづらいやろ? ウチはその点、いちおうもちょっと広いし。 ゲストルームもあるしね。」



勝手にコトを進める彼女に、


「ちょ、ちょっと待ってください、」


高宮は慌てた。


「あ、それとも加瀬んとこがよかった?」


「なっ・・」


思わずのけぞった。


「まあ、そこまで進んでへんみたいやから。  ウチならいくらいてもいいよ。 正月も別にどっこも行かないしね。」


「しかし、おれはそんなに会社を休むわけにも・・」


「ああ、それなら志藤ちゃんが適当に言ってくれたみたいよ。 芦田さんに。」


「は?」


「用事があって東京に戻ってきたら、駅のエスカレーターでコケて骨折したって。」


「はあ????」


「ま、理由なんかどうでもええやん。 ほら、車で来てるから。 行くよ。」


嵐のようにそう言って、高宮の背中を押した。




「社長の家で療養なんかできませんよ。」


高宮は勢いで南に連れてこられたが、浮かない顔だった。


「ぜいたく言わないの。 それともあの二人のラブラブ~な空間に耐え切れるの?」



それは


すんごい


ヤだけど。


「大丈夫やって。 ま、いちおう玄関は一緒やけど。 エレベーター乗っちゃえば誰にも会わないし。 で、高宮は正月は用事あるの?」


南は彼のバッグをゲストルームに運んでやった。


「妹が3日の日に結納をするので、元旦には来るようにと言われていて、」


「え、どこでするの?」


「長野です。 父の地盤が長野なので。そこで後援会の人にもお披露目をするということで三が日にすることになって。その前に会食だ、挨拶だといろいろすることがあるとかで。」


「ふうん・・大変なんやなあ。 あたしも政治のことはようわからへんけど。 ま、それまではゆっくりしてなよ。 今日で仕事納めやけど、あたし、30日まで真太郎と挨拶回りとかあって昼間はいないこと多いけど。 社長のトコにはお手伝いさんもいるし。 高宮のことは言っておくから。」


南は玄関のかぎを開けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る