第147話 帰京(3)

「なんか仕事は忙しいし、東京に帰れなくなるかもしれないとかいろんなこと考えてしまって。 そんな時、忘年会でめちゃくちゃ飲まされて。 酔っ払って・・それで、」


高宮は事実をそのまま話すと、


「勢いでやっちゃったっつーのかよ!」


斯波の勢いは収まらない。


「や、やってません!!」


ムキになって大真面目に返した。


「そんな…そういう関係ではありません! ただ・・勢いでキスは・・」


ここまで正直に言うべきなのか、もう判断力も失っていた。


「キス・・」


夏希はその事実を認めた彼にまたも体温が急上昇する思いで、



「ひ、ひどい! あ、あたしのこと好きだって言ったのに! あたしにもキスまで・・したのに!!」


と言い出し、斯波と萌香は驚き。


そして高宮は別の意味で驚き・・。


「やっぱ・・あたし騙されてたんだあ~~~、」


夏希は萌香にすがり付いておいおいと泣き出した。


斯波はまるで夏希の父親になってしまったかのような気持ちで、


「おまえっ! 何考えてんだっ!」


高宮の頭をひっぱたいてしまった。


「いって・・」


「だいたい! 大阪に半年も行くのにコイツに黙って行っちゃうし! 行ったら行ったで、向こうの支社長秘書といい仲になったり!」


「いい仲じゃありません!!」


高宮も必死に反論した。



「だいたい23年間も男とつきあったことのないコイツになんで・・そういう大人の駆け引きなんかするんだっ!」


斯波のあまりの怒りっぷりに萌香も当の本人の夏希も驚いた。


「かけひきなんか!」


「かけひきだっ! こんなんされたら。 こんな免疫ゼロのヤツ、どんどんおまえのことを好きになっていくだろーがっ!!」


普段無口な斯波がここまで言うことに、高宮は別の意味で驚いた。


かけひき・・


夏希は少し冷静になってその言葉の意味を考えた。


そうだ・・


高宮さんが突然いなくなっちゃったり


カワイイ秘書と一緒に仕事をすることになったり。


そんなん思うたびに


どんどん


どんどん


彼のことが・・。


そう思うと俄然悔しくなって、


「ひどい!!  そうだったんですか!?」


夏希は高宮に泣いて抗議した。


「だから! 違うって!」


高宮はそう言ったところで、くるっと萌香の方に向き直り、顔をゆがめて


「すみません・・足が・・」


と言い出した。


「は?」


「ズキズキしてきた・・」


「え? ちょ、ちょっと靴下を脱いでみて、」


萌香は焦って彼の足を見る。


靴下を脱ぐと、くるぶしあたりが紫色に腫れあがっていた。


「すっごい内出血してる。 ちょっと待って冷やした方がいいわ。 湿布も持ってきます。」


それを見た夏希はそこまでの怒りが失せて、


「すっごい紫色になってる…折れてないですか?」


と心配してしまい。


コロコロと変わるこの状況に斯波はまるで芝居か何かを見ているようで、


「なんなんだ・・もう・・」


呆れてしまった。



萌香は高宮の足に湿布をして包帯を巻き、その上から氷嚢で冷やしてやった。


「も~、そんなのはどうでもいいからさあ・・」


斯波は話が進まずにイラついた。


夏希もなんとか涙が収まってうなだれている。


「その秘書の人とはそれ以上は何もないんですか?」


萌香は高宮に言う。


「ないですよ…。 ほんっと、あの時おれ、どうかしてたって・・・」


もう100%後悔の気持ちだった。


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