第146話 帰京(2)

高宮はくるぶしあたりに激痛が走り、その場に倒れこんでしまう。


「た、高宮さん!」


萌香は慌てて彼に駆け寄る。


「いっでぇ・・」


高宮は足首を抑えてもんどりうった。


「だ、大丈夫ですか!?」


事態に慌てた夏希も思わず飛び出してくる。


「そ、そんなに・・思いっきり閉めなくても、」


涙が出てきた。


「ご、ごめんなさい。 って、なんでここにいるんですか・・」


夏希はようやく現実にハッとする。


「仕事終わってから来たんだよ。さっき、着いて・・。」


「え…?」


萌香は地べたに座る二人に、


「と、とにかく寒いから・・中で話をしたら・・?」


と勧めたが、


「おい、」


斯波が彼女を小突いた。


「こんな夜遅く、二人きりにさせるな、」


またそんなことを言い出すが、


「高宮さん、せっかくここまで来てくれたんやし。 ね、加瀬さん・・」


それを無視するように二人に言った。


「あ、あたし・・別に話すことなんかありません、」


そもそも、どうして自分が大阪から急に帰ってきたかを思い出した。


「や、ほんと! 誤解だから! 水谷さんパニくっちゃって、」


「水谷さんてあの人ですか・・」



『私たちもう離れられないんです』



彼女の言葉を思い出して、夏希はいきなりわっと泣き出した。


あまりに彼女が大きな声で泣くので、斯波は焦って、


「そんなでっかい声で泣いてると下まで聞こえるから!」


この際どうでもいいと思い、とりあえず二人を夏希の部屋に押し込もうとした。


「ちょ、ちょっと・・」


高宮はそれはそれで焦るし、足は痛いしで。


夏希は萌香の腕を掴んで、


「ぐ、ぐりずざんも・・ぎでぐださい・・」


大泣きしながらそう言った。


「はあ??」


もう、なにがなんだかわからなくなり・・。




結局


4人で夏希の部屋に入っていく。


「だから彼女は同僚で。 ほんとこの3ヶ月間の間、一緒に頑張ってきて。 まだ入社2年目で、いきなり支社長に倒れられてどうしていいかわからない状態だったから。」


高宮は理沙のことをそんな風に言い訳した。


「い、いっしょに過ごしたって・・」


夏希はティッシュを握り締めながらようやくそう言えた。


「え?」


「高宮さんの部屋で一緒に過ごしてもう離れられないって・・どーゆーことなんですか?」


斯波は夏希のその言葉にびっくりして何か言いそうだったので萌香は慌てて彼の口を手で押さえた。



「それは・・」


高宮が戸惑っていると、斯波は萌香の手を振り払って


「おまえ!! ナマイキに二股か!」


彼に怒鳴った。


「ち、ちがいます・・!」


いや厳密に言えば、何もなかったわけじゃないんだけど・・


予想外の斯波の怒りに高宮はもう何をどう説明していいのかわからなくなっていた。

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