第148話 帰京(4)

「高宮さんは加瀬さんのこと、本気なんですか?」


萌香は夏希がいる前で直球勝負に出た。


「えっ・・」


全ての視線が高宮に集まり、緊張の空気に包まれる。


「もちろん本気ですよ。 もうなんか・・色々考えてたのに、こんなことになって。 もう翻弄されちゃって、」


彼は深いため息をついた。


「色々って、なんだよ。」


斯波はまだ怒っていた。


「だから! 加瀬さんとちゃんとつきあいたいとか!」


ムキになってそう言った。


「な・・」


夏希は腰を抜かしそうになった。


「正直! おれ、大阪なんか行きたくなかったし。 でも、社命だから断れないし! 加瀬さんとちゃんと付き合うとかそういうこともできずに中途半端な状態だったから! もう、行く時だって何て言っていいかわかんなかったんですよ。 彼女はそれほどおれのことを思ってくれていないんじゃないか、とか・・いろいろ考えてしまって。 待っていて欲しいなんて言えるほどの関係でもなかったし。 もう、行ったら行ったで、向こうは大変なことになっちゃってて、毎日毎日夜遅くまで仕事して。 そんなんしてるうちにもう思考停止しちゃって…」


最後はグチっぽくなってしまった。


「一番肝心なのはおまえが帰ってくるのかってことじゃん・・」


斯波は腕組みをしながらいっそう怖い顔で言った。


「心配ですよ。 まだまだ混乱してる状態だし。 おれが行ったときにペンデイングになってた仕事、山ほど残ってるし。 その支社長秘書の子はなんていうか・・ほんっと、おとなしくて気が弱くて。 ここで、おれだけハイ、さよなら、なんてしていいのかって…」


高宮は複雑な胸の内を明かす。


「だったら・・残ればいいじゃないですか! あの人のために!!」


夏希はカッとなってそう言ってしまった。


「だから、おれは!」


高宮が続きを言おうとすると、


「もう、あたしのことはいいですから!」


夏希は自暴自棄になってそう言った。


「なにがいいんだよっ!」


高宮は思わず声を荒げた。


そう言われて夏希はようやく涙が乾いてきたのに、またわーん、と泣き始めた。


「だから、おまえも泣くな!」


斯波もイラついて夏希の頭をはたいた。


「あなたが怒ってどうするの、」


萌香がいさめる。


「加瀬さんはこういうことに慣れていないし、自分でも突然大阪に衝動的に行ってしまって、いきなり寝込んで、いきなりそういう人が現れて、いきなりそんなことを言われて戸惑っているんです、」


夏希の肩を抱くようにして彼女を庇った。


「栗栖さーん…」


夏希は彼女に抱きつくようにまたオイオイと泣き続けた。

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