第140話 決心(3)

キスって


こんなに長く・・するの?



息は


止めとかないといけないのかな…


く・・


くるしい…。


夏希は具合が悪い上に息まで止めていたので、ものすごい勢いで彼を突き飛ばすように離れた。


「ど、どーしたの、」


「ぐ・・ぐるじい…」


テーブルに手をついて、はあはあと息を切らせた。


「ひょっとして・・息、止めてた?」


「と、止めてましたよ。 し・・、しぬ…」


また、ガクっと倒れそうになる彼女の腕を取って、


「息は・・してもいいんだよ・・」


脱力しながらそう言った。



なんでこんなことまで説明しなくちゃならないんだ。


それでも


キスだけで


こんなにパニくっている彼女が


すごく


愛しい。



「プリンの・・・味がした。」


そう言って笑うと、


「な・・。 あ、味わってたんですか?」


夏希はぎょっとして言う。


その表現に


またツボに入ってしまい、高宮は大笑いしてしまった。



なんとか彼女を寝かせたのは深夜0時近かったが、高宮は志藤に電話をした。


「すいません。遅くに、」


「や、まだ起きてたから。 ん、どした?」



この人の軽さが


イヤでたまらなかったのに。


今はすっごく


この声を聞くと安心する。



「おれ、芦田さんに東京へ帰りたいって言いました。」


「・・そっか。」


たぶん彼がそうするのではないかと思っていたので、志藤は特に驚かなかった。


「自分だけ。 ここを放り投げて帰る気がして、ほんと悩んだんですけど。」


「いきなり、追いかけられてきちゃったもんなァ、」


志藤はクックッと笑った。


少し


ドキンとして、


「誰かのために帰りたいって思うことはいけないことでしょうか、」


志藤は黙っていた。


「ほんと考えられないんですけど。 おれが、このおれが一人の女の子のために仕事を二の次にするなんて。」


こいつは


自分の気持ちの変化にも


戸惑っている。


「それはアリやと思うで。 おまえにとって一番大事なものを優先するべきやん。」


志藤の言葉に高宮は少しだけ心が軽くなる。


「わからんで。 この先は。 加瀬はほんま変人やし? あ~、もうこんなヤツごめんやって思う時がやってくるかもしれへん。 だけど、大事なのは今やし。  後悔だけはしたらアカン。」


「後悔…」


「自分と向き合って。 きちんと考えて出した結論なら。 誰に何を言われても、関係ないやん、」


優しい声が


伝わってきた。



いつものように

彼女の眠るベッドの下に布団を敷いて寝ようとして


その


子供のような寝顔をじっと見た。



後悔


するんだろうか。


子供のころから


衝動買いだとか、感情優先で行動をしたことはなかった。


いつもきちんと順序を踏まえて考えて。


先の先まで考えて。


自分の決めたことに後悔なんか


してこなかった。


この子がいなかったら


おれは


間違いなく


ここに残っただろう。


自分がここのためになっているって


自負がある。



でも


今は


理由もなく帰りたい。


いや


理由は


ここにいる


彼女以外に、なにもない。

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