第141話 衝撃(1)

また


夏希は懇々と眠ってしまった。


ふと起き上がると、もう高宮は出かけていていなかった。


時計を見るとまだ7時半。



もう


出かけたんだ。


のそっと起きていくと、昨日より心なしか体が軽くなっている気がした。


熱が下がってきているのがわかる。


顔を洗って、水を飲んでいると。


インターホンが鳴った。



え…


どーしよ。



高宮が留守の間に出てもいいのだろうか、と思ったが


インターホンの受話器を取って出た。


「はい・・」


と返事をすると、


「え、」


モニターに映ったのは女性のようで夏希はさらに焦った。


女の人・・?


相手も困っているようで、


「あのう。」


怪訝な顔をした。


理沙は今朝、直行することになっていた高宮が持って行く資料が抜けていることに気づいて早めに届けにやってきた。


しかし


インターホンから聞こえる声は彼ではない?


夏希の声があまりにガラガラだったので、女性とはわからないほどだった。


「水谷、ですが。 あの、高宮さんのお宅ですよね…」


「そう、ですが…」


「あの、資料を・・」


資料?


会社の人???


夏希は自分的に探りながら理解し、施錠を解いた。



は・・?


ドアを開けた夏希を見て理沙は激しく驚いた。


女の人…?


しかも


部屋着姿で、ボサボサ頭で。


呆然としてしまった。


「あのっ…」


夏希はどうしていいかわからずに、


「高宮さんは出かけました…」


とだけ言った。


誰…?


お互いにそう思いながらも、理沙は高宮の言葉を思い出していた。


『好きな人がいる』


まさか


このひと?


ウソやろ…。



あの


高宮とはまったく


正反対の方向にいる人だ。


「あなたは…」


理沙は見上げるほど大きい夏希に言った。


「あ、あの! えっと、クラシック事業部の・・加瀬夏希、と申します!」


反射的にそう言って


ハッとした。



ここで名乗ってどうする!


むしろ、いいのか!?


「クラシック事業部・・」


理沙は小さくつぶやいた。


この人が


高宮さんを東京に


帰らそうとしている


張本人?


理沙はそのファイルをぎゅっと握り締めるようにして、


「あ、私、高宮さんと一緒に仕事してる…支社長秘書の水谷です。」


夏希に自分のことを告げた。


支社長秘書・・


夏希はいつか志藤が、支社長秘書の子が小さくてかわいい人だと言っていたことを思い出す。


本当に


なんて女の子らしくて


カワイイ…。



理沙はもう堤防が決壊したかのようにしゃべり始めた。


「た、高宮さん、芦田支社長代理からここに残ることを熱望されて! ほんっと、高宮さんがいなくなったら大変なんです。 大阪は・・東京と違って人が少ないし! 高宮さんのおかげで、ようやく混乱から立ち直って! 高宮さんがいなくなったら困るんです!」


必死に夏希に訴える。



なにを


言っているんだろう。


この人は…。



まだ頭がボーっとして。


理解ができない。


「高宮さんもここにいてくれるって言ってくれました! 残ってくれるって、」


「え・・」


夏希は驚いた。


「私たちには高宮さんが必要なんです。 いえ、私には…彼が必要なんです!!」


ショックの波が


さらに襲った。


「この前も一緒にこの部屋で過ごして。 もう、離れられないんです!」


離れられないって・・


なに?


夏希は全身に鳥肌が立って。


目の前のことが


まるで


夢の中のことのように


ぼんやりとしていた。


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