第139話 決心(2)

「何か食べられそう? おかゆとか・・」


高宮は夏希に訊いた。


「いえ、ほんっと・・大丈夫ですから。 高宮さんは早くお風呂にでも入って休んでください…」


夏希はヨロヨロと冷蔵庫に向かい、昨日高宮が彼女のために買ってきてくれたプリンを取り出した。


それをマグカップに移して、いきなり電子レンジで温め始めた。


「な・・なにしてんの・・」


高宮は度肝を抜かれた。


「え・・?」


しばらくして、ほっかほかのとっろとろになった代物を取り出した。


夏希はそれをちょっとずつ飲み始めた。


飲んでる!


「それは…なに?」


おそるおそる聞くと、


「え。なんだろ…『ホットプリン』?」


今名づけたであろうその品の名を言った。


「冷たく冷えてるプリンを、なんであっためるの?」


ひきつった顔で言った。


「え・・おいしいんですよ。 栄養もあるし。 そのまま飲めるし…」



周囲にあま~~い匂いが漂う。


疑っている様子の彼に


「ほんっと美味しいんですよ・・飲んでみてください、」


夏希はマグカップを差し出した。


う~~~~ん。


あの


『バナナがゆ』


の恐怖が蘇り、食べるのがものすごくものすごく勇気がいった。


ちょっとだけ口をつけて。


「う・・・」


思わず口を押さえた。


「おいしいでしょ?」


「あ・・甘い!」


慌てて水を飲んだ。


「え、この甘いのがおいしいのに。」


夏希は不満そうに言った。


「も・・むせかえるほど甘いよ。 やっぱそのまま食べるほうがおいしいよ・・」



なんでこの子は


食べ物をフツーに食べないんだ。


「おいしいのに・・」


夏希はしゅんとしてしまった。


ほんと


カワイイ。


自分と目線はほぼかわらないほど大きいのに。


彼女の額に手を当てた。


「まだ・・熱いね、」

「夕方、解熱剤を飲んだんですけど。すぐに上がってしまって…。」


「志藤さんには話しておいたから。 ゆっくり休んだほうがいい。」


「あたし・・なにをしているんでしょう・・」


自分にも問いかけた。


それがおかしくてプッと吹き出してしまった。


「今はね。 余計なことを考えないで。」


優しい


優しい目で。


彼女を見つめた。


彼女の手からホットプリンの入ったマグカップをそっと取り上げてテーブルの上に置いた。


きょとんとしている彼女に顔をそっと近づける。


「・・え、」


もう心臓が破裂しそうにバクバクし、思わず体を引いてしまった。


「・・み、3日もお風呂入ってないし、」


「お風呂って。そこまでしないから。」


また、素っ頓狂なことを言い出す彼女に笑ってしまった。



そこまで?


そこまでってどこまで?


夏希が頭を悩ませていた瞬間に


高宮は彼女にキスをした。



- !!


また


目を開けっ放しで


驚いた顔のままで。


「だからさ。 目、つぶってくんない? 力も抜いて・・。」


まるで石膏像のように固まっている彼女に高宮はそう言った。


「ち、力・・? どこの、力を抜けば・・いいんでしょう・・」


夏希はもういっぱいいっぱいだった。



ほんっと


かわいいよ…。



高宮は彼女の背中に手をやって、もう一度優しくキスをした。


最初はそっと彼女の唇をついばむように。


今度は


体中の力が一気に抜けてしまい、


夏希はぶらんと手を下ろした。




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